014 溜息と同じ色をしている
目の前には、ずらーんと並ぶ小さな小さなもの。それは人間なんかはとてもじゃないけど入りきれないほどミニマムサイズ。それはデジモンの、しかもピョコモンの村だった。
「ああ…」
期待が胸を打ち破り、残った欠片の理性で呆然となる。少しだけ期待していた部分があったので、小さく落胆して、一斉に肩を落とした。
「ピョコモンの村だったのか…」
太一が落胆したように言い、家や木々などを指ではかった。単眼鏡で見たサイズは、遠近法という問題ではなかったみたいだ。
「何もかもピョコモンサイズだぜ…?」
「昔、ママに読んでもらったガリバー旅行記思い出しちゃった」
「おいおい」
今夜のことを考えていた太一やヤマト、それから丈にとっては、ミミの言葉はとても考えきれないものだ。この少女は楽天的すぎる。ため息をついてから、これからどうするかと腰に手をあてて、三人は話し始めた。
栞は苦笑を零しながら、イヴモンをショルダーの中から引っ張り出した。気だるそうに目を瞬かせてから、栞の腕の中でだらしなくへばっている。
「大丈夫…?」
「…ウうーン…大丈夫ダヨ…」
「暑いの、苦手なんだ」
「寒イのモ、苦手なンダ」
苦笑に近い笑みを浮かべ、イヴモンは栞の腕の中で日陰の部分を探す。ふわふわの毛が腕の中で暴れ回っているせいで、少しだけくすぐったかった。
「うまくしたらここで一泊くらいできるかと思ってたけど…無理みたいだな」
「これじゃ家に入ることなんてできませんね」
何度かミニマムサイズの家々を見つめ、ため息を零すヤマトと光子郎。その横から手が伸びてきて、栞の手を取った。驚いて目を丸くさせてから見れば、それは空の手だった。イヴモンを抱いていたので、吃驚した拍子に落としてしまっていないかと地面を見て、彼がまだ自分の腕の中にいることを確認して空を見た。
「空、どうしたの…?」
「…疲れたの。とっても、とってもね。…ねえ、休みましょう」
「う、うん」
疲れたというのは、暑い砂漠の中を歩いたからか、それともピヨモンの相手になのか。答えを聞かずとも、強調された「とっても」の部分を聞けば、それが後者を示すことがうかがえる。栞は苦笑に似た曖昧な笑みを浮かべ、空と小さな家の前に腰をおろした。空は心底疲れたというように重たいため息をついた。少しだけ頬もやつれたように見えて、栞はその手に自分の手を伸ばして、握りしめた。
「栞…?」
「…空には、ごめんね。でも…私には、ピヨモンの気持ちが、分かるかな、なんて」
「え?」
「もし、ね。もし、だよ。今、お兄ちゃんが、目の前にきたら、私だってべったり、くっついちゃうと思うから…。離れたくなくて、甘えたくて、ずっとそばにいたいって思うから」
キラリ、と栞の胸元で、太陽に晒されたペンダントが赤い光を放った。
空は栞から視線をはずし、地面を見つめる。何を思っているのかは、栞には分からなかった。余計なこと、言ってしまったかもしれない。少しだけ、後悔した。
「ピヨモン!どうやって進化したんだ?」
「空と一緒にいたらいつの間にか進化したのよ」
「ただ人間と一緒にいたら進化できるの?」
そんな変な空気の中、2人のいる反対側で、ピョコモンがピヨモンを見上げ、不思議そうに問いかけた。進化してみたくてもピョコモンたちは、進化ができない。渇望に満ちた視線に、ピヨモンは胸を張って自慢げで、それから誇らしげだった。
「あたしが進化したのは、それはきっと、空を守るため…」
空は顔をあげて、まっすぐ前を見た。今、ピヨモンは真剣に言っていた。
「私を守る…?」
その言葉を復唱して、ふ、と笑う。
「ただの甘ったれのクセして、何言ってるのよ…」
呟いてから、思い返した。
太一が危機に陥った時、太一と栞のデジヴァイスは光を帯び、アグモンはグレイモンへと進化した。そしてもう一つ、ヤマトがシードラモンに締め付けられて苦しんでいた時、やはり彼と栞のデジヴァイスが光を放ち、ガブモンはガルルモンに進化した。クワガーモンにやられそうになった時だって、子供たち1つ1つのデジヴァイスが、栞の「おねがい」という願いに反応して、天空から光を帯びて、空のピョコモンもピヨモンに進化した。そう、あの時ピョコモンだったピヨモンは空を守るために進化したのだ。
それから、と空は栞の足もとを見つめた。常に進化には栞が付きまとっていた。時々、何かを知っているように、口を開く。進化の場面になるといつもの甘ったれが、泣き虫が、嘘みたいに凜とする。
(じゃあ、私が危機になったら…。ピヨモンは、そして栞は、)
そこまで考えて、顔をあげた。
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