015 理由が必要なら




 光子郎とともに少しだけ遅れて池につくと、他の子供たちが愕然として池を見ていた。きょとん、と首を傾げ、光子郎と目を合わせる。状況判断が他の子供たちより遅れているので、栞も池の方へ目をやるった。
 池には、水がからきしなかった。


「ここに池があったのに…」


 ピョコモンの声がとても悲しげで、だからこそ余計に先ほどの歯車のことを出さずにはいられなかった。見た瞬間に駆け抜けた気持ち悪いほどの負の感情。関係ないとは、あまり思えなかった。


「さっきの…」


 躊躇いがちに口を開けば、みんなの視線がぐさりと突き刺さる。びくり、と少しだけ怯えながら言葉を紡いだ。


「落ちていた歯車って、ミハラシ山の方向に、だったよね…?」
「歯車…。俺たちが見たアレか…」
「黒い歯車、ですね?」
「でも、ミハラシ山に歯車が落ちたからってどうしてなの?」


 空の素朴な質問に、子供たちはうーんと唸った。たかが歯車如きで、池の水が全てなくなり、噴水から水が消え去るだろうか。


「この辺りはすべてミハラシ山が水源なの…。だから、ミハラシ山に何かあったら水は全部干上がっちゃう!」
「でもミハラシ山にはメラモンがいるの…ミハラシ山はメラモンが守ってくれてるはずなの…」


 落ちた歯車、枯れ果てた水、ミハラシ山の泉、メラモン。
 栞はミハラシ山に目を向けた。


「黒い、歯車…」


 ぽつり、と呟いて、太一を振り返る。


「あの、八神くん…」
「ん?なんだ?」
「あのね…、ミハラシ山の方向、見てくれないかな…?」


 目を瞬かせてから、太一は慌てて頷くと単眼鏡を取りだし、それでミハラシ山の方向を見た。小さなレンズを覗き込んで、目を凝らす。肉眼で見ていた時には見えなかったものが、太一の目に映し出された。


「…あ?…なんだ?あれ…」


 何かが、勢いをつけて山から下りてきていた。赤とオレンジの体をもった、メラメラと熱血人の如く燃えている感じ。そんなものが山から駆け下りてきている。


「メラモンだ!メラモンが山から下りてきてる!」
「いつものメラモンじゃないわ!」


 段々と近づいてくる気配に気づいたピョコモンたちが、大声でメラモンの名を呼んだ。『いつもと様子が違う』、それは何かが違うということで、栞は一歩後退した。

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