「ピヨモン、進化!!―――バードラモン!」
炎を纏い、ピヨモンの身体が変化する。不死鳥のように燃えゆる『バードラモン』は、一気に崖をおりてきたメラモンから子供たちを守るように翼をはためかせた。
「…ピヨモン…?」
「彼女はバードラモン」
「バー、ドラモン…?」
栞は自分を振り返る空に小さく頷いた。炎の化身、彼女はメラモンを倒すことが出来るのだろうか。否、答えは明確である。バードラモンは圧倒的な強さで、メラモンの身体を押しやる。
「進化、したの…?」
呆然と呟く空に、同じように口を開けたままの太一や光子郎。栞は、立ち上がり、更に頷いた。
「オレは…オレは…バーニングフィスト!!」
それは、またバードラモンの体に直撃した。悲痛に叫ぶバードラモンを見る空の目は、涙に濡れながらも、『絶望』はなかった。栞は優しく微笑んだ。すべてを包み込むような笑みは、空の心さえも包んでいった。
「…栞、私、何をすればいいのか分かる?」
空の声が、栞の耳に届いた。
彼女は一瞬だけ目を伏せ、それからバードラモンを見上げた。
「…心から応援してあげて。思ってあげて。それが、彼女の活力になるから」
空は立ち上がる。必死に指を組み、バードラモンを見上げた。
「バードラモン、お願い!頑張って!!」
(ありがとう、空…)バードラモンは空の声を受けて、優しげに微笑んだ。(あたし、空のために頑張るよ)穏やかで、それでいて大切なものを守る瞳は、空の胸に刻み込まれる。どくん、どくん。脈をうつ心臓が、空を圧迫するような感動を与える。
「…バードラモン」
静かな栞の声に、バードラモンは振り返った。
「お願い、彼を傷つけないで。背中の、黒い歯車を狙って」
すとん、と。
暑さに耐えきれず溶けてしまった氷のような。
それでいて、暖かい声だった。
「ギャーっ!」
了承を語る大きな咆哮に、栞は小さく笑んだ。
空と栞。まるで対極的な彼女らを、太一は後ろから見ていた。活発な空、大人しい栞。クラスメイトとして、栞のことは知っていた。しかし誰と話すこともなくて、いつも独りぼっちでいた彼女。変なヤツ、としか思っていなかった。暫くして、と言ってもここ最近の話だが、空と一緒にいることが多くなったので、その姿を目に入れる回数が増えた。それでも空のおまけ程度にしか見ていなかった。
まだ一日しか共に行動はしていない。しかし、その中でたくさんの彼女の表情を目の当たりにしている。怯えたような表情、泣きそうな表情が多かった中で、少しだけ見る凜とした表情を思い出す。今と全く同じだ。デジモンたちが所々で呼ぶ『守人』というものが関係しているのだとしたら、それについて、自分は何も知らなすぎたと思った。それから、何となく栞が気になって仕方なくなった。いつしか太一にとって、栞とは不思議な人間でありながら、目が離せないという対象に変わった。
「メテオウイング!!」
炎の鳥(メテオウイング)が、メラモンの身体に突き刺さった。その拍子にメラモンは倒れ、背中から黒い歯車が飛び出した。
「あれは、黒い歯車…!!」
「あの黒い歯車がメラモンの中に入ってたんだ…そのせいで、」
「バードラモンの勝ちだあ!」
考え込む子供たちのその横でタケルの無邪気な声が聞こえ、栞は自分の中から何かがすーっと抜けていくのを感じながら、バードラモンからピヨモンに戻っていく課程を見ていた。
(…ピヨモンがバードラモンに進化して私を助けてくれたんだ…それから栞も、)
ピヨモンは、言葉通りに空を守ってくれた。それはその事実だけが嬉しくて、崖から滑り降りてくるピヨモンを力いっぱい抱きしめた。
暖かい気持ちになれるその姿を見ながら、栞はいつしか微笑んでいた。よかった、わだかまりは解けたようだ。その時、肩にぽん、と手が乗せられた。後ろを振り返り、硬直する。
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