「何を作ってるんだろ?」
「調べてみないと分からないな…、」


 その言葉に瞳を輝かせたのは丈だった。


「調べるんなら人がいるかも調べようよ!これだけの工場なら、絶対誰かいるはずだ!」
「でも今までだってそう思って悉く期待を裏切られてきたじゃない」
「誰かー!誰かいませんかーっ!」


 空の言葉にも聞く耳持たず、と言った様子だった。人間がいないなんて信じたくないと瞳を輝かせる。口に手を当て、恥ずかしいくらいの大きな声で丈は叫んだ。その声量が大きかったせいで、耳が痛くなったのは言うまでもない。
 しかし返事は一切求められなかった。工場には丈の声だけは遠く響き渡った。


「…ほら。誰もいないわよ」
「そんなことはない!機械を動かしている人間がどこかにいるはずだ!」
「もういい加減にしてよ、丈先輩」


 深いため息とともにはかれた言葉に、栞は苦笑を漏らさずにはいられなかった。何も信じたくないわけではない。しかし、人っ子一人姿が見当たらないのだ。もはや諦めるしかなかった。
 そのまま子供たちは探索を進めたが、人間がいると信じているのは丈だけになった。工場の中は案外広く、一度迷子になったら1人では絶対に外に出られそうもない。


(…しっかり空についていかなきゃ、)


 栞は、ぎゅとペンダントを握りしめた。
 それから数分、子供たちは歩き続けた。疲れた足を何度か叩き、ひたすら同じような廊下を進む。そこでようやく、突き当たりらしい扉に当たった。その扉には、「POWER SUPPLYR」と書かれてある。所謂「動力室」というやつだった。この動力室によってこの工場が動かされているのだとしたら、全ての答えはここにある。


「中に入ってみるか」


 ヤマトは全員を見渡して、力強く言った。頷かない者はいない。全員で足並みをそろえて、動力室の中へと入れば、そこには巨大な電池がそこにあった。否、あったという言い方よりも、いたという言い方の方が合っているような気がする。


「オバケ電池とモーターだ!こんなので動かしているなんて…」


 光子郎の顔が、さっと輝きに変わった。パソコンに限らず、機械という機械が好きなのだろう。ヤマトの方は少し呆れた感じだった。―いつまでもここにいるわけにはいかない。ここにあるのは単なる巨大な電池だけだ。しかしこの工業はおそらく黒であるから、他の場所を探しに行かなければいけないのだ。ヤマトはポケットに手を突っ込んだまま、小さくため息をついた。光子郎の「てこでも動かないぞ」という反抗心が、見えてしまったのかもしれない。


「…なあ、まだ調べるのか?」
「先を急ぐんでしたら、皆さんだけでどうぞ。僕は残ってもう少し調べます」
「1人でか?」
「ええ。僕は平気ですからどうぞ」


 さらりと言い捨てた光子郎に、栞は戸惑った。いくらテントモンがいるからといって、こんな訳も分からないところに光子郎が1人になるのは、些か危険ではないだろうか。もう一度だけ光子郎を見て、彼の瞳はここという場所に釘付けになっているのが分かると、戸惑いながらペンダントを握りしめた。


「仕方ないな。行くぞ、みんな」


 ため息をつきながら言うヤマトに、栞はその場から動けなかった。
 どうすればいいのだろうか。たとえ自分1人が残ったとしても何の役にも立たないだろう。もしかしたら逆に邪魔になってしまうかもしれない。
 一人で何かを決める事に、まだ慣れていなかった。ちらりとイヴモンを見る。にこりと笑顔で返された。自分で決めるのだ、と言われているようだった。


「栞、どうしたの?」
「行きましょうよー、栞さーん」


 突然俯いた栞を心配したのか、困った顔の空と、自分の腕を引っ張るミミが目の前にいた。栞は再度ペンダントを握りしめた。困った時の兄頼みみたいなものだった。


「あ、あの…私もここ、残りたい、な」
「え…?な、なに、どうしたの?」
「…え、えと…ここがどんな場所だかも分からないし、一人になるのは、怖いと思う、から。…泉くんの気がすんだらみんなのところに行くから。いい、かな…?」


 空は、一瞬、本物の栞なのかと疑った。栞と一緒にいるようになって、まだ間もないが、それでも性格は熟知しているはずだった。誰かの後についてくるだけ。だから空はそれを引っ張ってあげればいいだけ。その通りだった。いつも栞は自分の後を追いかけてきた。しかし、と空は小さく笑みを漏らした。この危険も伴う冒険に身を投じて、栞だって少しずつ変わってきている。空は小さく微笑んで、栞の手を握った。

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