「ええ、分かったわ。太一たちには言っておくから、ちゃんと光子郎くんと来てね」
「うん…!」


 栞も柔らかな笑顔を見せて、みんなの背中を見送った。涼やかな工場の中だからか、イヴモンは頭の上で寝ていた。彼を振り落とさないようにゆっくりと振り返ると、そこに光子郎の姿はない。


「え、あれ…?」


 驚いて辺りを見回しても、この部屋にはいなかった。


―――……自分が残ると言った隙から何かあったのだろうか!どうしよう!


 栞の頭が小刻みに震えたせいか、イヴモンがふわりと頭の上から腕におりてきた。


「栞、どうしたノ?」
「い、泉くん…が、いないよ!」
「光子郎?…ああ…あそこにいるンじゃないカナ?」
「え…?」


 栞は急いでフワモンの目線の先を見つめた。そこには1つの小さな扉があり、そこから光が漏れている。バタバタと、軽やかとは言い難いテンポでそこに入った。


「泉くん!」
「…栞さん?」


 目を丸くしたような光子郎が栞の視界に入り、ほっと胸をなで下ろす。よかった、とくに何もなかった。少しだけ溢れていた不安が、す、と消えていった。


「どうしてここに…?みなさんと行ったんじゃなかったんですか?」
「う、ん…。え、えと、わ、私も興味があって」


 栞は慌てて繕うと、光子郎は怪しんだように見えたが、そうですか、と言葉を返した。


「い、泉くんは何をしているの…?」
「僕ですか?…これが気になって」


 その言葉に光子郎の背後に広がっている壁全体に描かれた文字を見た。古代文字のようで、日本語ではなかった。解読することは不可能だろう。光子郎はふ、とため息をついた。しかし、栞はその文字を、目を見開いて見つめていた。


―――…しゃらん。しゃららん。


 淡い光を発している文字に、胸が鳴り、頭の中で鈴の音が響く。そっと近寄って、それに触れる。


「これ、は、」
「どうやらコンピューターのプログラムのようですね」


 光子郎も隣に来て、それに触れる。触れた箇所が消え、電気が消えた。


17/07/25 訂正
10/09/15 訂正

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