「よ、弱いのにどうして逃げなくちゃいけないんだよ!」
「今に分かる!」


 いつもはマイペースなアグモンが、かなり焦っていた。そして焦る理由も、すぐに分かった。ヌメモンたちは奇声にも似た笑い声をあげながら、少し異臭のする物体を投げつけてきた。それが彼等の攻撃だと理解するのに数秒、その物体を理解するのには頭が追いつかなかった。ぞくりとする。栞は泣きそうになりながら、必死に走った。ひゅん、という音と異臭が頭の上を通り過ぎていく。栞は本気で泣きたくなった。
 子供たちは――とくにミミからの悲鳴が聞こえる中、タケルは横穴を指さした。


「あ、こっち!出口だよ!」


 出口という横穴を見て、栞は心底ほっとした。ヌメモンはジメジメしたところが大好きで、光が苦手だった。――そこまで考えて首をひねったが、それよりも急いで外へ出なければ、またあの異臭のする物体を投げつけられる。ひやりと背筋が凍りそうになり、駆けるスピードが一段と速くなった。
 パァ、という明るい光に照らされて、栞は再びほっとした。


「ここまで来れば…」


 ぽつり、と呟いた栞の言葉通り、ヌメモンは太陽の光に照らされた途端、耳障りな奇声を発して地下水道の中に消えていった。ふぅ、と思わず全員で汗を拭う。誰一人あの攻撃を喰らっていなかったことは、不幸中の幸いだった。
 彼等は再び太陽の下、いわゆる砂漠の中を歩き続けた。これならまだ水滴が垂れてくる地下水道の方がマシだったかもしれない。いや、それでもヌメモンがいるところは勘弁だ。誰もが思ったに違いない。冷や汗ではない汗が頬を流れ、拭っても拭ってもじわりとにじみ出てくる。違って意味での衝撃を食らって、心底疲れていたところだったので、彼らの疲労はピークだった。


「あれ?」


 そんな彼らの目の前に、たくさんの自動販売機の山が飛び込んできた。


「こんなところに、自動販売機が、」
「たくさんある…」


 誰かがごくりと生唾を飲み込んだ。目の前から聞こえてきたところを見ると、どうやらミミのようだ。そういえば、と地下水道を歩いていた時のことを思い出す。確かにコーラが飲みたいとか言っていた。こちらに来て水しか飲んでいないから、余計にそう思うのだろう。分からなくもなかった。出来るのならば、自分もジュースが飲みたいと思うからだ。


「ミミ、まさか飲みたいなんて…」


 ふらりと一歩前に出るミミを咎めるように、パルモンが見上げる。しかし、ミミの進みでた一歩は、そのまま自動販売機に一直線だった。「ミミくん!」と丈が止めるが、ミミには聞こえていないようだった。むしろ聞こえないふりをするかのように、走って行った。栞は眉を寄せた。シェルモンの縄張りだった電話ボックスのことを考えれば、きっと何も出てきはしない。ミミも、そこまで期待していないだろうに。

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