「何の用だい?もんざえモン」


 イヴモンの声は、至って軽やかだった。しかしそれも表面上だけだ。静かなる闘志を宿し、彼は笑っていた。栞はその背中に、すがりつくだけだった。もんざえモンは何も言わず、鋭く光る赤色の瞳だけが、栞を見ていた。


「おもちゃのまちへようこそ、守人」


 やがて口を開き、にたりと笑う。
 『守人』、と呼ばれ、栞はびくりと肩を揺らした。


「栞に、何か用かい」
「おもちゃのまちへようこそ、守人」
「埒が明かないな…」


 壊れたマリオネットのように、ただひたすら同じ言葉を繰り返すもんざえモンに、イヴモンを取り巻く空気が冷えた。


「悪いけど、――僕は彼女を守らなければいけないんでね」


 何故だかは、彼女自身も分からなかったが、そのつぶやきを聞いて少しだけ哀しくなった。守ってもらえるのは、凄くありがたいことなのに。


(守られて、ばかりだ)


 今も、昔も。誰からも。しかし、その位置は楽だった。何も考えず、何を与えるわけでもなく、ただ過ごせていられた。この世界に来てまだ数日しか経っていないが、覚えた言葉がいくつかある。その中でひと際存在感を放つのは、『守人』という単語だった。彼女なりに考えてはみた。自分の知っている漢字を当てはめてみて、頭の中で変換する。パソコンや辞書があれば、一発で変換できるが、そんなものがない今は自分の頭に頼るしかない。一番しっくりきたのは『守る人』と書いた『守人』だった。自分を『守人』と呼ぶデジモンたちに、栞がしてあげられることとは一体何だろうか。


―――…願いは君を強くする。 


 不意に頭の中に届いた小さな声。それは、イヴモンの声と類似していた。


―――…守りたいと君が願ってくれたのなら、それ相応の力が君に降り注ぐ。


 そんなことが、自分にできるわけがなかった。けれど、守ってくれる存在を、…守りたいと思ったのは自然なことだった。栞は服の裾を握りしめ、目を瞑る。こわかった。何もしたくなかった。守ってもらえれば、それが一番だった。


「…違う、」


 手はしっとりと汗を掻いていて、額からも汗が滴り落ちる。
 色々、考えていたことがある。頭の中に浮かぶ不思議な声、叩きだされる不思議なデータ。自分は、紛れもなく『守人』である。力はないけれど、空を飛べる方法なら、見つかるかもしれないと栞は立ち上がった。


「…栞?」
「1人じゃ、怖いけど、…一緒なら」
「…っ、うん…。栞、ありがとう」


 何をすればいいかなんて、分からない。けれど何かしなくちゃいけない。しなくちゃ、いけないんだ。ぐ、と手のひらに力をこめる。意識をとある一点に集中させた――それを栞は確実に持っている。誰に習うわけでもなかった。デジヴァイスだ。それが媒体となり、世界へ解き放たれる。彼女の持つ全てのイメージを注ぎ込んだ。
そうして光が放たれた。それは守人の放つ暖かな光だった。


17/07/25 訂正
10/09/24 訂正

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