「はァ…」


 聞こえてきたため息は、彼の表情を更に暗くさせるようだった。


「気楽なんだから…。雪なんて降られたらたまんないよ」
「あの、城戸さん…?」
「あ、ああ…栞くんじゃないか」


 腕を組んで深刻な顔をした丈は、何だか栞を不安にさせた。彼は最年長だ、きっとみんなを第一に考えなければいけないのだろう。なのに当の本人たちは、気にせずただ笑い合うだけ。確かに深刻な気持ちになるのも分かる気がする。


「これ以上、気温が下がれば、野宿だって難しくなる…」


 その言葉にはっとして、口を押さえた。あの輪の中で笑ってた自分を少しだけ窘めるように。


「頭が痛いよ…。僕はみんなを守らなくちゃいけないからね。 僕は一番年上なんだから」


 その言葉は、丈自身を潰している。
 栞は一度目を閉じた。


―――…仲間がいるよ。私には仲間がいる。みんなを、守る。


「…あの、城戸さん」


それからゆっくりとみんなを見る。


「…ここに来るまでだって、色々ありました」
「え?」
「でも、その度みんなで乗り越えてきました」


 少しだけ慈愛が込められた瞳は、何を思って全てを見るのか。彼女は『守人』だった。守るというならば、それは彼女の役目。しかしその本当の意味を、まだ理解してはいない。


―――…ちょっとした失敗じゃない。大丈夫よ、真田さん。


 少しでも失敗したりすると、何故だか凄い不安に駆られた。それが些細なことであっても、とりかえしのつかないことをしてしまったような気分になる。そんな時、栞はいつも、泣いていた。今の丈はそんな危うさがある。いつだったか、教師に言われた言葉が反芻して、胸を締め付けられる。
 空が、栞と丈を手招きした。その手を見ながら、栞は更に呟く。


「だから、城戸さん一人で背負うこと、ないんです」
「……栞くん」
「みんなでなら、できると、思います」


 小さく浮かべられた笑みは、そのまま手招きされる方向へと歩き出す。丈はぐ、と眉を寄せた。


「…それでも、僕は年上なんだ。みんなを、守らなきゃ」


 蟠った想いは溶けることがなく、彼は一人それらを背負ってしまう。最年長といえど、まだ小学6年生の肩にのしかかったものは、重たいものだった。

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