見渡す限りの銀世界が、栞たちの眼前に広がった。息を吐けば、それに伴い白い息が漏れる。肌寒くて、イヴモンの身体を強く抱きしめれば、何だか身体がホカホカと暖まった。
「…ほら見ろ、僕の心配した通りだ」
小さく呟いた丈の言葉はしっかり栞の耳に届いていた。雪合戦しようなんて言ってられないだろ。そう込められた意味に、栞は少しだけ不安になった。
「これからどうするの?」
「とりあえず先に進む!ここでボケッとしててもしょうがないだろ!」
「えーっ!この雪原をか?これ以上はムリだよ!」
「じゃあどうすんだよ!前は雪原、後ろはあの山…。どっちにしろどっちかへ進むしかないだろ!」
いつになく弱気な丈を、太一はイライラした口調でぶつけた。自分は最年長だの言っておきながら、最終的には太一を頼りにする丈に対して何か思うところがあるのかもしれない。
「…、な、んか」
「どうしたの?」
「変なにおい、」
心配そうに二人の様子を見守りながらも、鼻を掠める臭いに栞はさっと眉を寄せた。どこかで嗅いだことのあるような臭いに、更に眉を寄せる。
「臭い?」
太一が問い返すと、栞は無造作にこくりと頷いた。
「……あ、これってもしかして」
目を瞑ってみんなが鼻だけに意識を集中させると、やがて答えが見えてきた。臭いが漂う方向へと目を見張れば、そこから小さな煙が立ちこめられていた。
「あれよ!」
「煙が出てるわ」
「そうか、この臭いは温泉だ!」
暖かい温泉の近くならば、この寒さも凌げるだろう。子供たちの顔に喜びが浮かんだ。まず最初に駆けだしたのはタケルだった。そのあと直ぐをヤマトが追いかけた。
「きゃはは!おフロだ、おフロだ!」
あわよくば入って身体を暖められれば、と期待を抱いてそこに近づいてみて、子供たちは愕然とした。それは到底おフロとは呼べる代物ではなかった。紫色に変化したお湯は、グツグツと音を立てて沸騰している。
がっくしと全員そろって肩を降ろした。
「あーん!これじゃあおフロに入れない!」
「でもあったかいわ」
「とりあえず寒さは凌げるな、」
不意に顔をあげたヤマトと目があったので、栞はそうだねと頷いた。
(寒さは凌げるけど、食べ物は、)
考えれば考えるほど、不安になっていく。何もここの世界に来て初めての夜というわけではないが、海辺や川辺とは違い、そう簡単に食料が手に入るものではないだろう。
そんな栞の胸中を見抜くように、タケルがにっこりと笑った。
「栞さん栞さん!あそこに冷蔵庫あるよ!」
「え…?」
見ろと言わんばかりに腕を引っぱり、タケルの言う『冷蔵庫』のある方向を指さす。大した期待も込めずそれを見れば、そこにあったのは本当に『冷蔵庫』だった。
「で、も、中入ってるのかな…?」
「見に行こうよ」
「そうだね、」
始終ニコニコと笑うタケルの顔を見ていれば、栞の内に芽生えた不安は姿を消した。笑みを浮かべれば、タケルは更に嬉しそうに笑った。小さなタケルの手を握って、二人は冷蔵庫のところまで向かう。
「開けてみよう、栞さん」
「前みたいにヌメモンとか、入ってないよね?」
「大丈夫ダと思うヨ」
「そうそう、心配してたら何も始まらないよ栞!」
ほのぼのしたパタモンとイヴモンの言葉を受けて、身長の届かないタケルの変わりに、ゆっくりと冷蔵庫を開ける。ひんやりした空気が、冷蔵庫から溢れ出てくる。コンセントなんてどこにもないし、電気だって通っていないはずなのに。しかしそんな常識は、このデジタルワールドでは通用しないことを栞はもう知っていた。
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