「ねえねえ何が入ってたの?」
「タマゴが、いっぱい、」
「わあ、タマゴ!」
「みんなに知らせに行こっか」
「うん!」
再び、彼の小さな手を握る。寒さに比例して、繋いだ手は、とても温かかった。
「メシはどうするんだよ」
太一やヤマトたちと口論を交わす丈は、先ほどの栞と同じ心配をしているようだ。『年上なんだから』、彼の心にはまだその言葉が重くのしかかっている。
「山ん中探しに行くか?」
「探しに!?今更ムリだよ、そもそもこんなところに食料なんて、」
「向こうに冷蔵庫あったよ!」
栞と繋いだ手とは反対の手で、先ほどと同じようにタケルは指を差した。
「で、でもこんなところに冷蔵庫なんて、」
ブツブツ呟く丈は、太一の両手に頭を挟まれて、ぐいっと一気に振り返る。そして、メガネがずり落ちるくらい目を大きく開けた。
「なっ、何でこんな所に冷蔵庫があるんだ!?」
「すげーラッキーじゃんか!」
「非常識だよ!」
ガッツポーズを決める太一を窘めるように、丈は声を荒げた。
「中、何か入ってたのか?」
「タマゴが、いっぱい入ってた」
「卵?」
眉を寄せたヤマトに、もう一度頷く。
「とりあえず見に行ってみようぜ!」
太一を筆頭に、子供たちはタケルの案内のもと、冷蔵庫のもとまでやってきた。一歩後ろには未だその真実を受け止められない丈がいた。
「ホントに全部卵ね!」
「これなら何とか持ちそうよ」
「卵のオンパレードだね、」
「ふふ、やっと普通のご飯にありつけるーっ!」
きゃっきゃとはしゃぐ子供たちを複雑そうな顔で見守る丈を振り返ると、栞は何だか淋しくなった。『年上』だからって、そこまで心配しなくても大丈夫だ。今、この子供たちの中でリーダーシップを取れているのは紛れもない太一だった。しかし、丈はそこが一番心配なんだろう。太一は勇気があってどんどん前に進める。それに対し、丈は心配性だ。それに『年上』というところもある。子供たち誰か一人でも病気や怪我をしたら、どうしよう。自分がしっかりしなくちゃ、自分が一番年上なんだから。――そんな想いばかりで、丈は中々前に進めずにいるのだ。
「今日の夕食はこれで決まりだな!」
「ちょ、ちょっと待ってよ!食べられるかどうか分からないじゃないか!」
「大丈夫だよ!毒味だったら俺がやるから!」
「食べられるにしても人のものを勝手に食べるなんて、泥棒と変わりないじゃないか!」
その言葉に1回うっときた太一だったが、直ぐに言い返した。
「事情を話せば分かってくれるって!」
「そうですよ、何しろ非常事態ですからね」
「…う…」
結局、7対1。丈が言いくるめてしまうのは、仕方ないことだった。
「よっしゃ、そうと決まればみんなで分担して作ろうぜ!」
「わ、私、料理苦手だな…」
「なんだよ、栞。そんなんじゃお嫁に行けないぜ?」
からかうように笑う太一に、栞は顔を真っ赤に染めて俯いた。な、なんてことを言うのだろう。どう返せばいいのか分からない――そんな栞を見てか、ミミも同じように笑う。
「大丈夫よ栞さん!私だって料理できないもの!」
「ミミちゃん…、そこ自慢するとこじゃないだろ…」
「まあまあ、ゆで卵くらいならできるでしょう?」
「ゆでる、だけ、だよね?」
「ゆでるだけっていうのも案外大変だけどね」
空の言葉に、栞は更に慌てた。料理なんてあの日以来ろくにやったことはない。女の子らしくなんてそんなものとは無縁だったし、台所に入ろうとするだけで一馬や母に随分叱られたものだ。
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