022 イエス・ノーで割り切れない




 見事な卵料理の数々を目の前にして、子供たちの空腹感は最大になった。涎を垂らすものもいる。焼き魚や木の実といったものばかりを食べていた子供たちにとって、久々の本格的な料理だった。


「こんなまともメシは久し振りだ」
「これで白いメシでもあれば言うことなしよねー」


 栞はまず、ミミと丈とで三人で作った(と呼べるかどうかは置いておいて)ゆで卵を一つとった。イヴモンも欲しがったので(他のデジモンたちは食べていなかったが)、もう一つを木の皿に取る。


「まダ?」
「待ってて。今、殻剥くから、」


 イヴモンには手らしい手が見当たらない。一目でそれを確認してから、自分の分よりも先にイヴモンの方を剥いてあげた。ぼろぼろになって、少し不格好だったが、それでもイヴモンは喜んでくれた。食べられる味かどうかよりも、これを彼が食していいものかどうか悩んだが、そんな不安もよそに一気に頬張っていた。しかし特に異常がないようなので、大丈夫だろうと安心する。


「すっゴくオイしいヨ、栞!」
「…ありがとう、」


 柔らかく暖かい笑顔を向けられれば悪い気なんかしない、逆に暖かい気持ちになる。


「…みんなは呑気でいいよな」


 栞とイヴモンのやりとりを見ていた丈は、遠回しに二人を責めたが、気づかれることはなかった。視線を落としながらため息をつけば隣のゴマモンと目が合い、居たたまれなくなって彼はふいっと横に顔を背けた。


「僕はそういうわけにはいかないんだ…。僕には責任があるんだから…」
「ね、ねえ!」


 その言葉が隣の空に聞こえていたらしく、彼女はわざと明るく話を変えようとした。すぐに空気を読み、気を使えるのが空のいいところだろう。


「みんなは目玉焼きには何をかけて食べる?」
「目玉焼きには塩コショウって決まってるじゃないか!」
「マヨネーズ、かな」
「僕も!」


 それしかありえない、聞くこと自体間違っている。そう思って言い切った丈の上に被さったのはヤマトとタケルの声だった。『マヨネーズ』、その単語に丈は些か眉を寄せた。

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