「丈、落ち着けよ!」
「うるさい!」
―――…毎日毎日うるせぇんだよ!お前のしつけがなってないから、こんなに泣き喚くんだろ!?
一つ、栞の肩がびくりと揺れる。
「僕は落ち着いてる!いつだってね!」
「今日はどうかしてるぞ!疲れてるんじゃ…」
「疲れてなんかないよ!」
彼の声は、山に木霊した。
どうして、誰も気づいてくれないのだろう。どうして誰も、自分達の『責任』が分からないのだろう。タケルは仕方ないにしても、他の子供たちは中学年・高学年なのだ。大人のいない、今の状況下で、自分たちが――自分がしっかりしなくちゃいけないのに!
「どうかしてるのは、みんなのほうだ!!」
―――…遺産がなけりゃこんなやつら…。早く違う家に引き取ってもらいてぇよ…。もううんざりだ…。
―――…バ ノ!!
どうしてみんな笑ってられるんだ。もしかしたら、危険な目にあって、死んでしまうかもしれないというのに。
丈は肩で息をすると、どかりと座り込んだ。
「栞さん…?」
「栞…、ドウしたノ…?」
光子郎の声、そしてイヴモンの声、言葉。
丈はゆっくりと彼女が座る場所を見た。瞳からこぼれ落ちたのは、紛れもない、小さな涙の雫だった。声をあげて泣けば、うるさいと言われる。だから声を押し殺して泣くのは、栞のくせだった。手の甲で涙を拭うのは、いつものことだった。
「だ、大丈夫か?」
「栞さん、泣いちゃダメだよ!」
栞がいつまで経っても真田家に馴染めないのにも理由があった。真田家に来る前に、兄と自分を引き取ってくれた家族に原因がある。引き取ってくれたといっても財産目当てで、彼ら夫妻は子供が大嫌いだった。栞が母と父を思って泣けばうるさいと怒鳴られ、そのたびに兄の教育がなっていないからだと怒られていた。そうこうしているうちに志貴につれられ真田家に引き取られた。その後、彼等夫妻と会ったことはない。それが大人を嫌う理由であり、懐けない理由でもあった。
丈の怒鳴り声によってあの時を彷彿させられ、溢れ出した思いは涙の雫となって瞳から流れ落ちた。
「…ッ、」
「栞…」
大丈夫だよ、と撫でてくれる手。温かさ。覚えてしまった以上、離れたくない。本当はもっと甘えたかった。真田夫妻が、おじとおばが優しい人であると知っていながら、近づくことができなかった。大人によって傷つけられた心、置いていかれた恐怖。すべてが栞の心を占めている。余裕なんてない。だけど空の手があまりにも優しいから、少しだけ、忘れかけていた父と母を思い出した。
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