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 誰も近寄れない広大な森は雨に濡らされ、いつもよりしおれていた。森を抜けると目の前には大きな庭が姿を現す。この場所に聖上な場所なんてない。全てが見窄らしく、汚らしさを庭が物語っていた。あたりには死体が無惨に置き去りにされ、屍は雨に濡れて黙っていた。
 雷雨が轟き、彼の城を揺らす。城はとても大きくかつてはこの世界の象徴であったのかもしれない。城の中からけたたましい叫び声が響いた。無数の傷をつけられた体は、薄汚れてしまっている。瞳にはたくさんの涙が溢れた。どうしてこんな仕打ちを受けなければいけないんだ!ピコデビモンは叩きつけられた衝撃で、階段から転がり落ち、その度に涙が階段を濡らした。


「お前の無能ぶりにはつくづくあきれ果てた…」


 最奥には一つの大きな正方形場の部屋があり、彼はそこにいた。地を這うような鋭い声に、ピコデビモンはすぐさま立ちあがり、頭を垂れる。地面にこすりつけ、精一杯の誠意を表す。


「おっ、お許しを…ッ!」
「『勇気』『希望』『友情』――子供たちの紋章が次々と光を取り戻しているではないか」
「めっ、面目ありません!!」
「で、ですが、まだ全ての紋章が発動したわけではありません!!」


 慌てて言い繕うように口を開いて、汗で滲む顔には笑顔を貼り付ける。ピコデビモンが後ろを振り返ると、背後の床にぽっかりと穴が開いて、一人の少女とデジモンの姿が映った。
 彼の口元が次第に歪みを得る。先日の光景がフラッシュバックされ――確信した。ピコデビモンが「愛情の紋章が――」「アドバイスを――」「この子供の処に――」などと言っているのを耳で受け入れ、踵を返す。


(もうすぐだ――)


 少女に触れた手からは、膨大なる闇の力を得た。あの少女を手に入れたものならば、己がこの世界の統治者に――もっと深い場所への『全て』になれるに違いない。


「あの…?」
「その時はこの私を呼べ」


 湧きおこる一つの感情――絶大なる闇の力を欲する心。彼は大いに微笑んだ。誰もが恐怖するその笑みは、ただひたすらに、力のみを求める。


「――私自ら、子供たちを地獄に送ってやる」


 もうすぐ手に入る力を思い浮かべ、彼は再び闇の中へと溶け込んで行った。

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