「…あれ?」
他のとは違う文字が、そこにあった。光子郎が片腕でパソコンを抱え込み、栞が目をとめた文字へと手を伸ばす。数回こすれば、その文字はいとも簡単に消えた。
「わっ!」
瞬間、洞窟内に明かりが灯る。それは火がついて明るい、とかそういうレベルの話ではなく、本当に電気がついたかのような明るさだった。光子郎がくるりと振り返り、太一たちを見わたした。
「やはりここではエネルギーがプログラムによって発生しているんです」
「どういうことなの?」
「つまり、こうやって壁に書いてあるだけのプログラムを書き換えるだけで、電気をつけたり消したりできるんです。…たぶん、こうする、と」
再び壁の方を向き、違う文字をこする。頭の回転の速さに驚くのと同時に、ある意味光子郎はプログラムを操っているのだという感激を覚えた。
「あーっ!」
「この付近の地図ですね…」
書き換えられたプログラムは、彼らのすぐ横にデジタルな地図を映し出した。地図があることに越したことはないが、まいったと髪の毛を掻きまわしたのは丈だった。眉を八の字にさげ、地図を見ていた。
「壁に書いたプログラムでそんなことができるなんて…コンピュータの中じゃあるまいし…」
「…僕はこの世界全体がデータやプログラムが実体化した世界なんじゃないかって思ってるんですよ」
顔だけで振り返って、真剣な眼差しを彼らに向けた。
「そう言えば、前にもそんなこと言ってたな…」
「ここがデータの世界ってことは…私たち自身も…」
「ええ…僕の推測では実体のないデータのみの存在です」
「実体がない!?」
しきりに不安げに寄せられる視線に、光子郎は小さく頷いた。彼の話しを聞きながらずっと黙り込んでいた栞は、はた、と顔を上げる。
栞自身がパソコンに詳しいと言う事は特にないのだが、父はシステムエンジニアという仕事をしていた。幼いころの話なのでどういった仕事かよく知りはしないのだが、それでも父はパソコンが得意だった。その影響か、兄もパソコンを扱うのに長けていた。子守唄のように聞かされたのは『守る人と狩る人』の神話だったが、食事中に聞かされたのは殆どがパソコンの話だった。彼女の記憶の底から引っ張り出した中で、印象に残っている話があった。
「データのみ、なら…。私たちは0と1で構成されてる…」
「0と1?どういうこと?」
「え、あ…、えっと…。あ、あのね、私たちが日常用いている数字は0…9、でしょ?それを10進数、っていうの。けどパソコンの中では0と1でしか構成されていないんだ。それを2進法っていうんだって」
「へぇ、詳しいんだな」
太一が感心したように頷いた。
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