「お父さんがパソコン関係の仕事だったし、お兄ちゃんが得意だったから」
苦笑に似た笑みを浮かべる栞を見て、ミミは自分の胸に手をおいた。これが、0と1だけで出来ているなんて信じられない。
「数字で出来てるってことは、生身の身体じゃないってことか」
「それって、幽霊みたいなものなの?」
「え、ええ。近いかもしれません」
「じゃあ本当の自分はどこにいるんだ?」
詰め寄られた光子郎はパソコンを持ったままじりじりと壁際にさがりながら、少しだけ眉根に力をこめた。『本当の自分』―――光子郎はずっと考えていた答えを導きだすように、ゆっくりと喉奥から言葉を引っ張り出す。
「…おそらく、まだキャンプ場にいるのではないかと。デジモンたちはまさにデジタルモンスター…。データ上の存在だったというわけです!」
「じゃあここはゲームの中みたいなものなの?」
タケルにとっては難しい解説だったらしく、いまいち理解しきれていない様子で首を傾げた。
「そこまで簡単じゃあないけど…」
「メールの差出人もデータなのかな…」
「それは僕にも分かりませんが…」
最初から確証があって話していたわけではないので、光子郎は曖昧に言葉を濁した。栞はその様子をイヴモンを抱きしめながら見つめる。彼女自身、憶測していたことだった。彼らと初めて会った時、彼等は確かに告げた。―――デジモンだと。デジモン、というのが何らかの略称であることは明白であるのなら、正式名称はデジタルなモンスター、つまりデジタルモンスターである。簡単に訳せば、電子の獣。更に簡単にいえば、データの獣ということになる。彼らがデータである以上、そして自分たちがオーロラに巻き込まれてファイル島という未知なる島に降り立った以上―――ここは現実世界ではなくて、データ上の世界と言うことになる。
イタイ、というイヴモンの声に、栞は慌てて彼を抱きしめる力を緩めた。拗ねるように目を吊り上げて、彼の小さな手が栞の頬に当たった。その時、栞は視界の端で光子郎の瞳が驚嘆に変わるのを見た。
「え!?」
「どうした!」
始終冷静な光子郎が声を荒げることは滅多にないから、何かがあったということは明白である。すかさず太一は彼のパソコンを覗きこもうと後ろに回れば、よく見えないらしく目を細めた。
「あ…ちょっと待ってください」
キーボードを打つ指が素早く動き、目ではディスプレイ上に映る文字の羅列を忙しなく追った。
「今、みんなに分かるようにします…」
壁を見つめたり、画面を見つめたり。彼の指先は決して止まることがなくて、栞は魔法の指だと思った。おそらく光子郎はキーボードを見なくても文字が打てるのだろう。ミスもないようで、あちらこちらに向ける目線がとても輝いていた。
「全体が見えるように調整しました」
少しの間の後、彼らの上空にぽかんと球体が浮かび上がった。
栞は、一瞬だけ目の前が真っ暗になった。立ちくらみでも起こったのだろうか。一回目をつむれば、それは足音を立ててどこか遠くに立ち去った。
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