★ ★ ★
彼は間切りされていたカーテンを引き、ヒカリの前に姿を現した。テイルモンは俯いていた顔をあげ、息をのんだ。この展望台につれてこられ、少しの間姿を消していたヴァンデモンが、現れた。その横には、まるで人形のようにすべてを投げ出した愛する秩序を引き連れていた。
「もりび、と―…」
「あの、人は――」
ヒカリの脳内をよぎったのは、あの日、テイルモンやウィザーモンとともにベランダに降り立った姿、そして兄と共に帰っていた後ろ姿だった。“栞”と兄は呼んでいた。
「ヴァンデモン!!守人にいったいなにを!?」
「もはやこれは守人という殻でしかない。中身のない、ただの空だ」
「なん、だと!?」
危惧した通りだった―。ヴァンデモンは守人を統べる方法を手にし、そしてそれを実行したのだ。愕然と戦慄するテイルモンを見て、ヒカリも言葉をつまらせる。
殻と彼はいった。空と彼はいった。中身はないといった。 あの時、少しの間だけだったけど彼女は―栞は表情を見せていた。喋っていた。なのに今は物言わぬ屍でしかない。ぎゅ、と手のひらを強く握り締めた。
「くくく…っ」
面白い余興の始まりになる。次第に笑みが濃くなっていた。
目の前の八人目を殺し、心を失った守人のすべてを奪い去る。そして世界は己のものとなり、闇へと変わる。
「娘。お前は何故、自分から名乗り出たのだ?私が何をするのかわかっているのか」
「…なんとなく、」
「ではなぜ?」
「…皆を苦しめるから…」
ぽつりとつぶやいた。己の中の光を見失わないように、幼いながらに吊り上がった強い意志だった。目の前の幼き少女は、強い意志を持っていた。
それはまさしく、“光”。憎き光を統べる者。
だから、早めにつぶしておく必要があった。 八人目の紋章は、彼女の名と同じ 『光』 。守人と惹かれ合う紋章の持ち主。手に入れたはずの守人の心が、闇に染まりきるうちに光に感化される恐れがある。
やはり―恐れていた通り、目の前の幼い少女は、小さな体に見合わない大きな光を持っていた。
「あなたが皆を苦しめるから、!」
心を奪ったはずの栞の体が、ぴくりと反応する。―忌々しい光め。人形のように自身を失った彼女の瞳が、ゆっくりと目の前の少女を見つめた。
「栞さんを…かえして…!」
忌々しい。この光は――狩人の光に酷似している。 あやつめ、封印されてなお、邪魔をするというのか。ぎりりと唇をかみしめる思いだ。にらみつけるように八人目の子供をとらえ、少しだけ目をつむる。――ならば二度と起き上がれぬよう、粉々に粉砕するまでだ…!
「テイルモン――」
ヒカリから目をそらし、ヴァンデモンは傍らにひかえる八匹目のパートナーデジモンへと視線をうつす。明らかにおびえる体は、言葉を発さずとも、理解できる。内心ほくそ笑んだ。
「何故八人目の目を見ない?」
「―そんな娘、知らない。そんなやつ、八人目ではない…!」
「…なるほどな?」
では何があったとしても、かまわないということだな。そう。言葉に乗せて。
パチンと細長い指から発せられた音に、背後から現れたのはピコデビモンだった。「キャッ!」ヒカリの短い悲鳴に、テイルモンは一瞬にして言葉を失う。「ヒカリ!」気付いたら、その名を呼んでいた。
back next