「そうか…八人目の子供の名はヒカリと言うのか」
「―っ!!」


 大きな危害を加えられていたわけではない。ただピコデビモンはヒカリの髪を引っ張っただけだ。…しまった!己の非力さを、情けなさを、理解した。 
 何が守るだ。何がヒカリを守るだ。自分が、ヒカリを危険に晒してしまったではないか。苦渋に満ちた顔で、絶望を隠せず、テイルモンは視線を下に落とした。


―――…きたるべき時に。備えて。
( できない…っ )
―――…あなたの力となるものと共に、守って。
( 私には――っできない…!! )


 「あなたは待っていたんだよね」「探していたんだよね」「だったら、それが、答えだよ」その時、耳をふわりとかすめる声が聞こえ、テイルモンは思わず顔をあげた。「もり―びと――?」目の前の彼女には何一つとて感情はない。なのに、何故だろう。彼女がしっかりとそう言った気がした。


「っ!!」


 気付いたら、足は駆けだしていた。気付いたら、ヴァンデモンと対峙していた。気付いたら――ヒカリをかばうように、立っていた。まるでそれが初めからの使命であるように、生まれてきた理由であるように。


「テイルモン。覚悟はいいだろうな?――デッドスクリーム!!」


 その時―わずかに―ぴくりと、栞の手が動いた。


「テントモン進化ー!――カブテリモン!!メガブラスター!」
「フラウカノン!!」


 満を持して放たれた二匹の攻撃に対して、ヴァンデモンはさして困惑していなかった。ふう、と一つ息を吐いた。その息は空間を捻じ曲げ、メガブラスターもフラウカノンもヴァンデモンには当たらず天井を突き破り、窓さえも大破させた。


「栞、っ!!」
「落ち着け、空!」


 名を呼ばれた彼女は、一瞬、些細な変化を見せた。ぼんやりと前を向いた、大切な親友。名を呼んでも返事をしない、親友。目があった。瞬間、空は泣きたくてたまらなくなった。温かい目をしているはずなのに、優しい目をしているはずなのに。今の栞には、何の感情も見受けられない。まるで生きた人形だ――。
 空はたまらず駈け出そうとしたが、ヤマトによって制された。そのときもう一度、ぴくりと、栞の手が動いた。
 ヴァンデモンはちらりと空を一瞥し、ゆっくりと栞の手をつかんだ。――邪魔などさせてたまるものか。折角手に入れたのだから。


「…うるさくなってきた。静かなところへと場所を移そう」

「っさせるか!!―ワーガルルモーン!!」


 大切なパートナーの声に、ワーガルルモンの跳躍は更に増した。一気にフジテレビの壁を駆けのぼり、ヴァンデモンの前に対峙した。それでもヴァンデモンは笑みを崩さない。―まるで勝利を確信した笑みに、空の中はたまらない怒りに満ち溢れる。「笑ってる余裕なんてないわよ…!!」きっとヴァンデモンは栞に何かを施したのだ。そうでなければ、栞があんな目をするはずがない―!


「カブテリモン超進化ァ!!――アトラーカブテリモン!!」
「アトラーカブテリモン!!ヒカリさんと栞さんを!!助けてください!!!」
「ホーンバスター!!」


 しかし再び彼の攻撃はヴァンデモンによって捻じ曲げられ、向きを変えたホーンバスターは、たまたまその直線状にいたワーガルルモンへと当たってしまった。衝撃でワーガルルモンの体は吹っ飛ばされ、間一髪のところで柵を掴んだものの「ブラッディーストリーム!」「うわあああああ!!」ヴァンデモンの攻撃によって手が離され、彼の体はフジテレビ外へと落ちていった。
 ぽろ、と彼女の瞳から、何から零れ落ちた。

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