――だって彼女は泣いているんだぞ。物言わぬ人形なんかじゃない。きっと、きっと。己の中で必死に戦っているんだ。
栞。お前は強いやつだ。俺、おまえのこと尊敬してるんだ。本当は誰よりも臆病で、泣き虫で、弱いくせに、頑張って突き進んでいくんだ。お前は守られていただけじゃない。お前だってちゃんと守ってくれていた。辛くて、苦しくて、悲しくて、でも、お前はいつも戦っていた。だから、だからさ、栞。
「栞!!諦めるな!!!」
その言葉に沈黙を守り続けたイヴモンは、その真っ青な瞳を太一に向け、思わずくしゃりと顔を歪めた。―分かっていた。既に心が落ちてしまっていることくらい分かっていた。彼女と自分はつながっているのだから。だから今、栞がどれだけ葛藤しているかも、分かるんだ。
何もできないと思っていた。もう落ちた彼女の心を取り戻す方法なんてないと思っていた。でも目の前の彼はあきらめるなといった。彼女に向かって、そしておそらくは己にも向かって。
「…栞っ、」
「―――…」
「…栞…!!」
彼女はただ前だけを見つめて、ただ、泣いていた。
「栞…っ!!」
名を呼ぶ。何度だって名を呼ぶ。君の名前は尊いもので、すべてに命を与えるものなんだ。君の名を呼ぶと、僕の心は温かくなる。まるで冬から春に代わる、その季節のように。
「起きてよ、栞…」
名を呼ぶよ。何度だって名を呼ぶよ。君が望むのなら、ずっと名を呼び続ける。僕は君から生まれた。僕のすべては君に還る。たとえ君が嫌っても僕は君の傍にいるし、守り続ける。君に叱られたって、その時がくれば僕は、僕は。だから、栞。
「諦めちゃだめだ!!―勝つんだ!!自分に勝つんだよ、栞!!!」
「―栞!!起きなさい!!起きて、一緒に戦うの!!」
「栞さん!!ちゃんと迎えにきたからね!!」
「栞、っ!――がんばれ!!」
「栞さん!!」
「栞くん…!!」
「栞さーーん!!」
「栞!!!諦めるな!!!!」
「無駄だ!!」
ヴァンデモンは至極不愉快と言いたげに声をあげる。そんなことくらいで折れるたやすい術ではないのだ。もはや守人は彼らの光でも希望でもなんでもない。我等の闇となり力となるのだ。だからもういい。こいつらの言葉は毒だ。耳障りだ。雑音だ。物言わぬ骸となるように、仕留めてくれよう。
「――ナイト、」
「……、る」
「っ!?」
「…ま、 も…………る――」
――光が差し込んだ。
それは七色に光る、虹のように。きらきらと心を焼き尽くす、美しい光だった。
17/07/31 訂正
13/12/12
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