102 救われていると識る
彼らは暗い靄の中で、たくさんの光の雨を見た。ああ、言い得て妙だと思った。そう、天から差し込む光は雨のように地上に降り落ちる。両手を出して、その光を掬おうとした。キラキラ光る粒子は、彼の手をすり抜けて、消えていく。けれど、何か大切なものを、手に入れた気がした。
彼は隣に立ちすくむ両親を見上げた。あの光は小さな背中が駆けていった方角だ。思いは三者三様。しかし包み込むのは一つの感情だ。女が憐憫に満ちた表情で、彼を引き寄せた。暖かさに身を包まれ、酷く安堵した。
「――栞…」
そうして、その名を呼んだ。いつも自分の後ろに隠れるようにしてついて回っていた少女は、今、あの光の下にいる。
おそらくは誰かのために。そして、おそらくは、自分のために。泣き虫で甘えん坊だった女の子は、泣くことを捨て、あの光の中心に立っているのだろう。
★ ★ ★
それは光の当たり具合によって、衣をまとった天女のようにも見えたし、翼を広げた天使のようにも見えた。美しく変貌を遂げた一匹のデジモンは、聖なる力を携え、君臨する。ヴァンデモンは、この瞬間を、畏れていたのだ。
闇と相対する光は、まさに己とこのデジモンを意味するだろう。強い光は、濃い闇すらも照らし出す。聖なる力の前には、無力だった。――あと、一歩だったのに…!
「ヴァンデモン!!」
光の中から顔を出したエンジェウーモンは、高らかに声をあげた。
「自らの醜い欲望のために現実世界に侵攻し、幾多の命を奪い、我らが秩序を傀儡としようとし、さらに我が友ウィザーモンを亡き者とした。その罪、思い知るがいい!」
「この世界を闇へと塗り替える…。デジタルワールドと融合し、全てを統べる王となるため、私は私の為すべきことをしてきたまでだ…!!」
「ヴァンデモン、罪を悔いるつもりはないのだな?」
エンジェモンの言葉で、何かが弾けた。遠いあの日、手を伸ばして、その少女をつかもうとした。あれさえ手に入れられれば、全てを手に入れたと同じだ。だから、何度も彼女を手に入れようと目論見、何度も光に邪魔をされた。何度も何度も、邪魔をされた。もう、我慢などできるはずもないというのに。もうそこまできていたというのに。
少女は光を抱きしめ、ただこちらを見ていた。真っ直ぐ、一ミリも汚れを感じさせない、その赤い瞳で。
瞬間、じりじりと焼け付く思いに、嫌気が差した。自分のものにならぬというのならば、必要などない。
ならば。
世界とともに――。
「死ぬがいい、守人!―――デッド、」
その手は、栞に向けられていた。「栞!!」名を呼ばれ、彼女はゆっくり目を閉じた。紅蓮の瞳がまぶたの向こう側に隠れる。次いで、再び瞼を開く。紅蓮の瞳が、世界を見据えた。
放たれたはずの閃光は彼女のもとにたどり着く前に、エンジェウーモンが、彼の前に立ちはだかる。
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