「栞、」
「……イヴ、モン…」
子どもたちから一歩離れたところで喜ぶ様子を見守っていた栞のところに、ふわりと暖かい風が舞い降りた。見ずとも、声だけでわかったから、びくりと肩を揺らす。――いつも無茶だけはしないでくれと釘を刺されていた。敵からは逃げなければいけない。自分が捕まれば、すべてが終わるのだからと。でも引き止めてくれた彼を振り払ってまで、無茶をして、危険を犯して、結果闇に囚われた。ほら見たことかと、怒られるのだろう。
祝賀だった空気が冷たいものへと変わり、子どもたちの視線さえ二人に集まった。
「…イヴモン、あの…」
「………本当に、馬鹿ダ」
「っ、」
「君ガ無事で、ほントーによカっタ……」
泣きそうなくらい歪まれた顔に、栞の方が堰を切らせたようだ。―不安と、悲しさと、喜びと。一気に押し寄せた感情の波についていけず、ぽろりと涙を流す。
「本当に心配シたンだよ」
「うん、」
「力がなくてごめんね」
「…ううん」
「栞」
「……うん」
「がんばったね。ありがとう」
「…っ」
擦り寄る白い光が、とても温かく彼女の心の中で咲き誇る。ああ、なんて愛おしいんだろう。この優しい時間を、忘れたくない。イヴモンを抱きしめた栞の顔に、涙とともに、笑顔が咲いた。ふ、と暖かい手に頭を撫でられた気がして、栞はやっぱり、微笑んだ――が、瞬間じくりと傷んで、顔をしかめる。驚いたようなイヴモンにはなんでもないと笑顔で首をふる。ヴァンデモンの城で痛めた右足、異常なまでに腫れた右足が今になってまた痛み始めるなんて。
「栞とイヴモンが仲直りしたところで」
「ちょっと太一、野暮なこというものじゃないわ」
「まあいいじゃんか!それより俺たちヴァンデモンを倒したんだな!」
「ああ、やればできるじゃないか!なあ?」
「うん!」
「これで世界をもとに戻すことができたのか」
二人の空気を察してかわざと明るく声を弾けさせた太一に空からは非難の声があがるが、ヴァンデモンを倒した事実は変わらず、またそれによってたくさんの人たちが救われたことも変わらない。続く丈の声にも喜びが含まれていたし、ミミには愛らしい笑みが浮かんでいたし、ヤマトも達成感に満ち溢れていた。
だが、タケルとヒカリは空を見上げていた。瞳に浮かんでいるのは焦燥感。喜ばしいはずの瞬間に、そんな色は似合わない。空は思わず声をかける。どうかしたのか、と。
「よく見て…」
「なんだ?」
問いかける方も、緊張感でいっぱいになった。指で空を示され、彼らはゆっくりを顔をあげる。
「霧…晴れないよ…?」
まるで運命を示唆するように、重くのしかかる黒い靄に、一筋の光も見いだせない。
ヴァンデモンは倒したはずだ。なのになぜこの霧は晴れない。――なぜ、右足が痛むのだろう。
空を見上げても、答えなど返ってこなかった。
17/07/31 訂正
14/06/19
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