「栞!」
遠目に見えた集団の中で、すぐにその存在に気づいた。両親の制止があったにも関わらず、すぐ彼女のもとへと駆けつける。他の子供たちなど、彼の眼には映らなかった。驚く子供たちをしり目に栞の目の前に立つと、彼女は右足をかばいながらきょとんとした瞳で彼を見上げた。ほっとした瞬間、別の何かがこみ上げた。
「かず、ま?」
「――このバカ!」
「え、あ、いた、!」
出会い頭に頭をぽかりと叩かれて、何が何だかわけがわからない。ただ目を見開いて目の前の彼―一馬をただただ見上げる。いつもみたいに他人に向ける険しい表情で、あの鋭い瞳で睨まれて、びくりと身がすくむ。思わず何も言えなくなってしまった。無事だったの?大丈夫だった?けがしてない?そんなもろもろの言葉―全部同じような意味だということはおいておいて―は、彼の迫力の前にすべて飲み込まれてしまった。
「え、えっと…」
「っよくわかんねーヤツがお前探してて、お前のこと知ってるっていったら連れてかれて、そんで、だから危ないことに巻き込まれてんじゃねーかって、」
「…うん、」
「英士と結人ともそれっきりで。いったい何が何だかわかんなくなって、そしたら、志貴兄が…、あ、いや…志貴兄かどうかわかんないけど、助けてくれた…」
おそらく、言っている本人はだいぶ混乱しているのだろう。まとまった文章になっていなくて頭の中でつなぎ合わせて、なんとか形にする。
彼はきっと自分のせいで怖い目にあって、でもそれをきっと彼の心の中にいた思念体である兄が守ったのだろう。自分を導いてくれたように、きっと一馬の中にも兄がいて一馬を導いてくれたんだろう。
「…うん。ありがとう、一馬。心配かけてごめんなさい。無事で、よかった」
「………」
顔をのぞき込めば、そっと視線は外される。その頬は赤く染まりきっていたから、きっと同じことを彼も思っていたに違いない。素直じゃない性分だからこそ、分かりやすいのだ。
「えーと、真田くん、よね。私、栞の友達の武之内空です。よろしくね」
周りは突然の彼の登場に呆気にとられていたが、隣にいた空は苦笑し、一馬に向き直る。その瞬間、一馬はぴきりと音を立てて静止した。思わず、笑みが漏れた。
「一馬、人見知りなの」
「あら、栞と一緒ね」
「……そう、おんなじ、なの」
そのことで苦労もだいぶしたけれど、なぜだろう、今はそのことがちょっぴりうれしかった。隣の空もクスクス笑っていて、一馬だけが少し気まずそうに視線をそらしていた。
17/08/06 訂正
14/10/10
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