104 式神の葬列
とりあえずミミは着替えに、丈は家の様子を見に行くということになり、一行はその場を離れることになった。そしてどうやら光子郎がいうには、彼の両親がマンションの中に隠れているから連れてくるというので、三人以外は一旦マンションの外で待つことになった。
まず、一番先に現れたのは光子郎とその両親だった。
「一体何がおこったんだ?」
「それは私から説明します」
光子郎の父親は険しい表情をたたえ、口を開いた。それに対し一緒にいたヤマトの父親がその疑問に答えていった。その傍らで栞のおじとおば―今となって両親もその説明を一緒になって聞いていた。彼らはただ栞とともにきて、そしておいて行かれてしまったのでまったくと言っていいほどこの状況を理解していなかった。
「はぁはぁ、お待たせー!…あれ?丈先輩はまだ?」
「うん、まだ…ここなんだけど…」
歩道の向こう側からかわいらしい声とともに、パジャマから普段着へと着替えたミミがやってきた。そして一人足りないことに気づき首を傾げる。空は頷き、マンションの一室を見上げた。
大方の事情を説明し終えたところで、タイミングよく兄を伴った丈が帰ってきた。
「じゃあ君たちはビッグサイトへ、私たちは霧を突破する方法を見つけよう」
そうして、家族たちが連れていかれたビッグサイトへ行く組、それから深い霧をどうにか突破する方法を探す組の、二手に分かれたのだった。
「栞、足は痛む?」
おば―否、戻ってきたのだから、もう彼女は栞にとって母と呼べる存在になったからもはやおばではない―母は、気遣わしげに引きずる右足を心配そうに見やった。栞は口角を少しだけ微笑みの形を作り、首を横に振った。
「少し痛むけど、でも、大丈夫、だよ」
「…無茶しちゃいやよ」
「え、と、分かってるよ」
「分かってないだろ」
「わ、わかってる、もん…」
「栞、なんなら俺が背負うぞ?」
「だ、大丈夫だよ…!」
捕まったかもしれない英士と結人が心配だからと一馬が言ったので自分も心配になり、更にいえばあの時自分がヴァンデモンのもとへと連れていかれる前にいた選別のために集められた子供たちが気がかりだったので、栞もビッグサイトに行くことに決めた。丈とその兄のシンは先にバイクでビッグサイトに向かっていったのを見送り、彼らは徒歩で向かうことになった。
その道中、何度も母は自分を気遣うように問いかけ、そのたびに一馬は悪態をつき、そして父は父で何度も背中を見せては乗るかと聞いてくる。今まで遠ざけていたぶん、一気に甘やかしがきているのかもしれない。甘んじて受け入れたいが、何分、両親に対する甘えは気恥ずかしくて拒否しかできなかった。そんな光景を、イヴモンは優しく見守っていた。
「ああ、そうだわ栞。これ」
「……ペンダント」
「このおかげか分からないけれど、でもあの化け物たちは私たちを襲ってこなかった。ありがとう守ってくれて」
「……ううん。あの、…できればこれ、まだおかあさんが持っていて」
「え?」
「まだ何があるか分からないから。その、危ない目に遭ってほしくない、から」
ペンダントを、母の手の中に押し込む。暖かさを持った赤色の勾玉は、一瞬栞の手に触れられたことにより、更に輝きを増した気がした。
「フフ。覚醒しタ守人の力が宿ッたかラ、タブン、それハこノ世でイチバン尊いモノだヨ」
「あら、あなたは…」
「僕はイヴモン。栞のパートナーデス」
腕の中からもぞもぞと出てきたイヴモンは、いつもと変わらず飄々とした様子でぺこりと頭をさげた。落ち着いて考えてみるとずいぶん不思議な光景である。ぬいぐるみのようにふわふわした生き物が意志を持ち、動いて喋っている。ただバケモンたちに比べたらずいぶんと愛らしい容姿のせいか、淀みも悪意もないまっすぐな瞳のせいか、彼らはその異形をすんなり受け止めることができた。
「そう。栞を守ってくれていたのね、あなた」
「ウウン、大しタことはデキないヨ。僕は戦えナいカラ、タだ傍にいルことしカ」
「そんなことない、イヴモンがいるから私は…」
慌ててぷるぷると身を揺する栞に、一馬はどこか複雑そうに顔をそむけた。父はそんな息子の様子に気づいたのか、少し笑みを浮かべてその肩に手を置いた。すべてを分かっていると言いたげな親の顔に、一馬はやっぱり複雑そうな顔をした。
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