ビッグサイト周辺には未だヴァンデモンの手下のデジモンたちが募っていた。主人は消えたというのに彼らはまだ忠実にヴァンデモンの命令に従っているようで、戦慄する。―やはり、ヴァンデモンはまだどこかにいる…。不安が胸中を占め、顔色を曇らせる栞の手を握ったのは一馬だった。ぽぅ、と胸の内から温かさがこみ上げて、栞は破顔した。温かい。一馬がこの手を握ると、すごく安心して、何でもできそうな気さえしてくる。恐怖が心の底から消えていく気さえ。ありがとう、と小さくつぶやいた。


「行くぞ!みんな!!」


 ビックサイトに突入すると、中を守っていたバケモンたちが侵入者に気づいた様子で慌てふためく。その隙にアグモンが先頭に立ち、こちらから攻撃をしかけた。「ピョコモン進化! ピヨモン!!」「モチモン進化! テントモン!!」「プカモン進化! ゴマモン!!」「タネモン進化! パルモン!!」幼少期だったデジモンは成熟期へ成長を遂げる。初めてみるデジモンたちの進化に、一馬も両親も目を見開いていた。


「ネコパンチ!!」
「ベビーフレイム!!」
「プチサンダー!!」
「マーチングフィッシーズ!!」
「ポイズンアイビー!!」
「マジカルファイヤー!」


 こちらは成熟期とはいえ、場数が違った。彼らが今まで培ってきた努力は、こうして結果としてあらわれた。バケモンたちは素早く一掃され、子供たちは急いで両親たちが収容されているであろうホールへと向かった。



「…これ…」


 そして、栞は言葉を失った。
 バケモンたちよってとらえられた人々は、大人から子供までピンキリだったが、そのすべての人々が眠ったまま床の上に寝かせられていた。一寸の狂いもなく、整列させられた状態だった。まるで、贄のように見えて背筋が冷える。
 その中に家族の姿を見つけた太一たちは一目散に駆け寄った。


「あれ…!英士、結人!!」
「えっ…?」


 その中には、一馬のサッカー仲間である英士と結人の姿もあった。一馬は持ち前の脚力で駆け寄る。栞も同じように駆け寄ろうとしたとき、不意に右足が痛み、眉を寄せる。ここにはいたくない。ここにはあのデジモンの闇が、渦巻いている。そんな気がした。


「母さん、しっかりしてくれ!」
「パパ、ママ!」
「おかあさん!」
「英士!結人!!」


 いくら声をかけても、揺さぶっても、彼らが目を覚ますことはなかった。ただ息は規則正しくしている。まるで生ける屍のようだった。
 丈は眉根を寄せ、深いため息をついた。傍らにいるゴマモンも同じような表情をしている。


「霧だけかと思ったら、こんな…」
「脈拍はしっかりしている。正常だ」
「父さん…」
「丈、おまえな…親の言う通りの人生歩む必要ないって」
「え?」
「実は俺だってさ、国家試験受かったら医者のいない離島に行こうと思ってる。父さんは反対するだろうけど」
「そうだったの…」
「そんなことより今はまずこの人たちだ」


 シンは立ち上がり、悲惨な光景を見回して。



「…外からの応援が必要だな」


 そっと息をするようにつぶやいた。

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