――“始めに蝙蝠の群れが空を覆った”。
―――“人々がアンデッドデジモンの王の名を唱えた”。
どうして今、あの予言を思い出すのだろう。もう一度大きくかぶりを振ったとき、「空、おかあさんが!」ピヨモンの狼狽した声が鼓膜に届く。
振り返って、栞は頭が真っ白になった。
「ヴァンデモン様、ヴァンデモン様…」
「お母さん、どうしたの?おかあさん!?」
空の母は、上体だけを起こし、両腕を前に突き出した状態で一様にアンデッドデジモンの王の名を繰り返していた。ひどく、無機質な声だった。瞳はうつろだ。傍で呆然と自分を見つめる娘の姿など、存在していないように、ただ、ひたすら。
「ヴァンデモン様、ヴァンデモン様…」
「お母さん、どうしたの!?」
「止めてくれ、父さん!」
「お母さん!」
「パパ、ママぁ!」
「英士、結人…!」
アンデッドデジモンの王の名を、ただ、ひたすらに。
呼応するように、今まで微塵も反応しなかった他の人々も、同じようにヴァンデモンの名を唱え続ける。それはひどく不気味な光景であった。
予言が、頭の中で渦を巻く。ひゅ、と息を吸い込んだら、すごく、甘美な味がした。
「これは…」
この深い霧を突破することができなく、やむを得ずビックサイトにやってきたヤマトたちが到着し、この異様な光景に息をのんだ。
「肉体的にはまだ眠っている。だからまだ寝言なんだけど…」
同じように触診を終えた丈の兄が首を横に振った。だから何にも分からない、とそう告げていた。眠っている状態だとはいえ、目を開き、体を起こしている。だからこそ、奇妙であり、不気味なのだ。
そして、彼らが口にするのは――。
「あの僕気になることがあるんですが…」
「予言だろ?…“人々がアンデッドデジモンの王の名を唱えた”…」
「はい」
「蝙蝠の予言も当たったんだよ」
「なんだって!?」
霧を突破するさなか、デジモンたちに襲われた彼らは、同時に無数の蝙蝠も目撃していた。いくら霧で暗くなっているとはいえ、まだ蝙蝠が出る時間には早すぎる。ガブモンの言葉に太一は目を見開いた。
―まさか、ほんとうに?ぐるぐると目まぐるしく脳内の光と闇がぶつかり合う。右足が、いたい。あつい。…痛い。気づかれないように、栞はそっと輪から離れた。
「三番目の予言はなんだった?」
「“そして時が獣の数字を刻んだとき、アンデッドデジモンの王は、獣の正体を現した”…」
「なんだよ、その獣の数字って!」
「666。ヨハネの目次録に出てくる数字のことだ」
「666…ってことは、6時6分6秒?」
刻むと題している以上、時刻であることに違いはなさそうだ。そして666。持ち前の感の良さを発揮したのか、正解なのはか分からないが今のところは当てはまる。太一はいそいでデジヴァイスで時間を確認する。時刻はちょうど6時を示していた。
「―もうすぐだ…!」予言と推理があたっているのならば、もう6分しか残されていない。
「車で行こう!」
ヤマトの父は、ヤマトと太一、それぞれのパートナーを連れ、車でフジテレビに向かった。
出来うる限りのスピードで街中を通り過ぎていく。車内は焦燥感に満ち溢れていた。太一は握りしめたデジヴァイスで時刻を確認する。6時6分4、5、――予言の時刻は、すぐそこまで迫っていた。
「間に合わない…!!」
時刻が、6時6分6秒を示した。その時だった。
フジテレビ周辺が真っ黒に包まれ、世界が、揺れた。
17/08/06 訂正
14/12/26
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