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「大変だ!!」


 空の腕の中で、ようやく息を整え、落ち着きを取り戻した栞は、そんな太一の声でゆっくりと顔をあげた。
 もちろん外に偵察にいったミミや丈がフジテレビに現れたヴァンデモンの姿をとらえていたので、今の事態については把握しているし、何より、自分のもとから離れたあの黒い塊がヴァンデモンの一部であると分かっていたので復活してしまったのは分かりきったことだった。


「みんなをどこかに移せないか…!?」
「無理だよ。何万人もいるんだぞ」


 あの大人数を動かすすべはない。そうこうしているうちに、ヴェノムヴァンデモンはここにやってきて、文字通り、食糧として喰らうであろう。
 「ヴェノムヴァンデモンを倒すしか、方法はない」ぽつりとつぶやいたのは、自分自身を抱きしめ戒めにふるえる栞を見つめたテイルモンだった。やけに落ち着いた声色だった。


「僕も手伝う!」
「私たちも!」
「ワイもや!」
「ようし、オイラも!」


 みんなで行けば、そう、仲間みんなで行けばもしくは――だがテイルモンはゆるゆると首を横に振るだけだった。


「いいえ、あなたたちは残っていなさい。一緒に行くのはパタモンだけ」
「えー!?」
「今やることは次の進化ができるよう、エネルギーを蓄えておくこと」
「…悔しいけどテイルモンの言う通りよ。みんな、そうしよう」
「なんでパルモンたちは完全体から幼年期に戻ったのに、テイルモンだけ成熟期のままなの?」
「鍛え方が違うのよ。――それと守人」


 射抜かれた瞳は、優しさや光に満ちていた。言いたいことは分かっている、栞はこくりと頷いた。体はふるえる。頭の中で闇と光が戦っている。
 目を見開いたイヴモンは慌ててテイルモンの前に飛び降りる。


「栞はだめだ、アイツに近づいたらそのまま呑まれる!」
「けど守人は彼女しかいない。―彼女にしかできないのよ」
「っ!」
「……だいじょうぶ。がんばるから」


 かすれた声だった。先ほどの咆哮した後遺症か、カラカラの声で、栞はつぶやいた。「だめだ、」同じようにつぶやいたのは一馬だった。「行くな、栞。ぜったい、だめだ!」彼には何が起こっているのか、まだ全貌は見えていない。だけど。栞の身に何か起こっていることは確かだ、それにあの化け物のところに栞が行くなんて。
 「だめだ」低く唸るように、その手をつかんでも――わかっている。真っ青な顔で、今にもぶっ倒れそうな顔で、それでも微笑んで、大丈夫って、栞は言うんだ。


「私もいっしょに行く。だって私は、"守人"だから」
「っ…なら。なら、俺も行く!」
「一馬、だめ!それは…っ」
「俺はお前の傍にいる。俺がお前を…守るんだ…」
「かず、ま…」


 遠い日の約束を胸に抱いた強い意志を持った瞳に、栞は何も言えなかった。
 太一とヤマト、タケルとヒカリ、栞と一馬、光子郎と両親、そのパートナーたちは、再びヴェノムヴァンデモンのもとへと急いだ。


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