「えっ!?」
「嘘…!?」
「こ、こんなことって……っ」
星々が輝く空はどこにもなくて、代わりに並々と揺らめく大地が逆さに映し出され、少し陰った空と交互に浮かんでいた。それはまるでストライプみたいな模様にも見えた。蜃気楼なのか。異様な光景に、子供たちは一様に息をのむ。
「あれ…は…」
見覚えのある大地に、栞はふるえた。まさか、そんなことがあるはずはない。胸元をぎゅっと握りしめ、それからそっとイヴモンを見やる。彼は吊り上がった青い瞳で、ただ、天を仰いでいた。
「お兄ちゃん…怖い…!」
「な…なんだよ、これ!」
ヴァンデモンを倒し、更に復活体であるベノムヴァンデモンを倒したのだ。これで終わったのではなかったのか。それとも砂のように消え去ったベノムヴァンデモンは実はまだ生きているのか?いや今度こそ、完全に消え去った場面を見たのだ。あれで生きていられるわけがない。
戸惑いや不安が織り交ざった表情で、子供たちはただ空を見上げるしかできなかった。
「タケル!!タケルー!!」
その時、女性の悲痛にも似た声が響き渡る。霧が晴れ、ようやくお台場にたどり着くことのできた人々の群れをかき分け、必死に名前を呼び続けていた。それに反応したのは、呼ばれている名と同じ名を持つ、タケルだった。彼はその声をよく知っていた。ぴくりと身を震わせ、嬉しそうに笑顔を浮かべながら振り返る。
「ママだ、ママ!」
女性はそんなタケルの姿を見つけると、涙を浮かべながら、急ぎ足で駆け寄ってきた。その表情は母親だからこそ成せる表情であった。よかった、無事だったのね。愛する我が子の身体に触れ、傷がないことを知ると、タケルの母はその小さな体をもう二度とはなすまいと強く強く抱きしめた。
ヤマトは、その様子を、少し離れたところで見つめていた。タケルの母ならば、彼にとっても母親であるはずだった。沈痛な眼差しをする彼の後ろで、ヤマトの父はただタバコに火をつけていた。
「心配したんだから!怖かったでしょう?」
労わるように息子の頭を何度もなでる母の手は温かい。だがタケルは母の言葉に反して、首を横に振るのだ。怖くはなかったと。驚く母の前で、タケルはにっこりと笑った。兄がいたから、怖くはなかった。そう告げる息子に、母は顔をあげる。その視線に写ったのは、自分たちの勝手な都合のせいで、離ればなれになってしまったもう一人の息子の姿だった。
「ヤマト…」
「母、さん」
自分から近寄れないヤマトと母に、タケルはその年ながら空気を呼んでか、母の手を引き、兄のもとへと連れていった。母は久しぶりにあったもう一人の息子へと暖かな眼差しをおくる。また背が伸びた?、少し。そんな会話をする親子に―正確には、元妻に、父は声をかけた。あの頃は喧嘩ばかりだったせいか、こうして会っても、どこか余所余所しい空気しか作り出せない。だがタケルは、無邪気に笑った。家族全員が再びそろったこと。それが至極の喜びであるように、無邪気に笑ったのだ。
再会を喜ぶ家族を目にし、ミミは悲痛な面持ちでそっと息をするようにつぶやいた。
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