108 其処は荒野で何も無い
それは笑いを誘う道化師。だがしかし客を笑わせるために踊るのは自分ではない。やつらだ。
掌を天に向け、くるくるとまるで何かを転がすように回した。―それには見えていた。近い未来、自分の掌の上で踊る、哀れな役者の姿が。そして、反対の掌は強く握りしめた。それには見えていた。自分の手中に収まる、哀れな哀れな秩序の姿が。
そして、それには、見えていた。その秩序を喰らい、己こそが秩序となる瞬間さえもが。
★ ★ ★
「おい、今のクワガーモンかよ!?」
「あの大陸から飛んできたのよ!」
一番近くでそれを目撃したのはガルダモンであったピョコモンとカブテリモンであったモチモンだ。二体は太一の言葉に深く頷いた。
やはり。栞は無意識のうちに胸元を手繰り寄せ、それから顔をあげた。目にうつるストライプ状の空。蜃気楼のように揺らめく大地は、自分の―いや、自分たちのよく知る場所である。
「やっぱりそうでしたか」
光子郎の声に栞は彼の顔をまじまじと見つめた。彼は、どうやら気づいていたらしかった。さすが知識の紋章を持つ者だ。
「やっぱりってなんだよ?」困惑する子供たちに、光子郎は空を見据えた。強いまなざしだと思った。
「あれはデジモンワールドです!」
「ええー!?」
「なんだって!?」
「あれがデジモンワールド!?」
「確かにそういわれてみれば…どことなく…」
「光子郎くんの言う通りだよ」
「栞…」
彼女は、そっと、息をするようにつぶやいた。子供たちから視線を向けられたので苦笑を浮かべ、つい、と視線を天空へと向ける。
「あれは…あそこは…デジタルワールド…。だからこちらのものでは感知できない。現実は、データという垣根は…越えられない…」
首を横に振る仕草に、息をのむ。
知識が豊富で、何度もそういった場面で助けてくれた光子郎。そして、あちらの世界の秩序である栞。二人の言葉が、子供たちの中に浸透していく。信じられないという思いは、徐々に薄れていった。
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