「栞、どうしたんだ?」
「あ……っ…ご、ごめ、んなさい…。すぐ…出すね」
じっと、ただ空を見上げ続けていた栞は、太一の声によって意識を彼に向けた。どこか虚ろだった瞳が、いつもの色を取り戻す。
彼女はポケットから彼らとは違う中が透けて見えるデジヴァイスを取り出した。
「頼む…俺たちをまたデジモンワールドに連れていってくれ!」
( おねがい。あちらへ。私を、私たちを――― )
その声に、祈りに応えるように、まず眩い光を放ったのは、栞のデジヴァイスだった。次いで呼応するかのように他の八つのデジヴァイスが光輝き、それは七色の虹のように美しい光柱となった。天まで届くほど、美しく揺らめく虹の柱。それがデジタルワールドと、彼らを繋ぐ橋だった。
「この光に乗れば、デジモンワールドへ…!」
「ああ!きっと行けるさ!」
「デジヴァイスのみちびき…」
悲痛な声が、その場に響いたのは、その時だった。
「タケル」と己を再度呼ぶ声。タケルは今すぐ飛びつきたい気持ちをおさえ、明るく笑ってみせた。小学二年生には思えないほど、たくましい笑顔だと思った。彼だって、デジタルワールドに行き、成長したのだ。守られるものから、守るものへと。
「折角みんな揃ったのにごめんね、ママ。でもちょっと行ってくる、」
「ダメよ!!」
「行かせてやれよ」
息子を心配する奈津子を諭したのは、彼女の元夫だった。自分たちの勝手な都合で振り回して引き裂いてしまった兄弟、そのことを思い、奈津子の瞳には涙が浮かぶ。―母の涙など、もう見たくはなかった。影に隠れて何度も見てきた。父と喧嘩をして泣く母の姿。ヤマトは一歩前に飛び出た。
「このままじゃきっと地球はおしまいなんだ!だから俺が…俺たちが母さんたちを守る!!」
「ヤマト…っ」
「頼んだよ、みんな。夜が来て朝がくるのを当たり前だと思っていたけど、今度ばかりは永遠に夜明けは来ないかもしれないからね…」
「そんな!縁起でもないこと言わないでください!私たちはこの子たちを信じます!」
「ああ、いや!僕だってですね…!」
「大丈夫だよ、兄さん。明日の朝陽は僕たちが登らせてみせる!!」
いつになく真剣な表情で拳をにぎる丈だが、そんな彼の固い決意も、空とミミの女子二人は軽く茶化して、皆に笑いを誘った。栞も、小さく笑う。不安がないわけではない。戻った先に何が待っているのかわからない今、今まで以上の危険だってある。でも守らなければならない二つの世界のために、自分ができること。この戦いで学んだこと。一つ一つ噛みしめれば、ふ、とそんな不安は胸中に消えていく気がした。
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