080 片側が癒えない
「なに?ガルダモンが現れただと…?」
ヴァンデモンは部下が得た情報を聞きながら、棺から起き上がる。未だ重たい体は、おそらく先ほど光の塊を一身に浴びてしまったからだろう。もどかしく思いながら、忌々しげに眉を寄せた。
「はい。選ばれし子供たちも、こっちに戻ってきたようです」
「八人目はまだ見つからんのか」
「ただいま捜索範囲を拡大し、総力をあげて探しております」
ヴァンデモンが東京に連れてきた優秀なデジモンたちが、街へと繰り出し、それとなく八人目の捜索を行っていた。有るものは動物として、有るものは大道芸として、有るものは人間に紛れ込んで、そして有るものは海の中から。人口が多い都会としては、多少妙な格好をしていたからとしてさほど興味など持ちやしない。
「子供たちも間違いなく八人目を探しているはず…」
それよりも先に、八人目を探しだし、抹殺しなければ。パッと、思い浮かんだあの儚き人間を―少女を掴もうと手を伸ばし、不意にさげる。視線は直ぐ様鋭く光り、自分の前にひれ伏すピコデビモンへと向けられた。
「急げ!子供たちに先を越されてはならん!」
「はっ!」
何としてでも、あの少女を手に入れなければならない。我らが秩序を。我らの源を。
★ ★ ★
「光が丘にいないなら、急いで他を探そうぜ。ぐずぐずしてるとヴァンデモンのやつに先を越されちまう」
「でも、ちょっとどこかに遊びに行ってるだけかもしれないじゃない」
「いえ、それはないと思います。―僕たちのもう一つの共通点、」
光子郎は伏せていた目をあげ、周りを見渡した。その中にはもちろん、栞もいた。間違いなんかじゃない。おそらく、彼女が全てに関わっているのだ。
「光が丘から、引っ越した、」
光子郎の言葉を拾い空が呟けば、彼は重々しく頷いた。「それが偶然でないのなら、やはり八人目も引っ越したと考えるべきです」そもそも、もはや光子郎の頭の中では、それは『偶然』ではなくなっている。
「だとしたら、八人目もお台場に?」
「…その可能性が高いと考えてもいいでしょうね」
「私、お家に帰りたい!」
「よし、とにかくお台場に帰ろう!」
太一の言葉を皮切りに、子供たちは目の前にある最寄駅であった光が丘駅に向かった。子供たちは目の前の地下鉄線案内図や発券機を見つめ、今いるこの場所からどういけばお台場に辿りつけるかを模索した。「え、っと…。一番早くお台場まで行けるのは…」そう。この光が丘からはいくつか乗り継ぎしなければ、お台場に帰ることはできないのだ。
「帰っタら、一馬に会エるネ」
握りしめた服の裾は、いつの間にか強く握りしめていたらいく、皺になっていた。イヴモンが声をかけてくれなかったら、ずっとそのままだっただろう。ふんわりとした優しい声に、栞は小さく頷いた。――、一馬に会える。その言葉はしんみりと栞の心に染みわたっていった。
「えーと、じゃあとりあえず中野坂上まで買ってっと」
「ねえねえ太一!それ何?」
「切符だよ」
ちゃりん、と券売機に小金を入れる太一を見て、コロモンは興奮したようにぴょんぴょん飛び跳ねた。動くな、と釘を打ちつつ、自慢げに「これで地下鉄に乗るんだ」と切符を見せる。
「地下鉄?」
「何それ」
喋るデジモンたちに、慌てて丈がしーっ!と指を口元にあてた。こちらに帰ってきたとしても、丈の気苦労は絶えないらしい。がっくりと肩をおとしたついでにメガネもずり落ちたので、人差し指で持ち上げた。
「頼むからみんな人前でペラペラ喋らないでくれ。ここはデジモンたちの世界じゃないんだ。誰かに見られたら大変なことになるんだぞ」
声を少々抑える。ぬいぐるみに向かって話していると知れたら、おかしな人を見るような目で見られるかもしれないからだ。便乗して空も子供に言い聞かせるように優しく言った。
「いい?ここではみんなは私たちのぬいぐるみの人形。だから動いちゃダメ。大変だけど我慢してね」
「うん。わかった!私喋らないし動かないよ。空に抱っこされてる方がいいもーん。そぉらー」
「動いちゃダメだって!」
ホームに移動した子供たちは、久しぶりの地下鉄がとても懐かしくなった。心なしか、顔色も初めて体験した時のように輝いている。
「洞窟かな、ここ」
「変わった洞窟だね」
「おいっ、静かにしろ…っ!」
だがデジモンたちにとってはここは未知なる世界なのだ。戸惑っても仕方ないと栞は小さく苦笑した。ただ自分の腕の中にいるイヴモンは特に驚いた様子もなく、丸まったまま毛玉を貫き通している。
( なんだか慣れてるみたいだな、 )
いくらクールなイヴモンですら、少しは驚くところが見られると思ったのだが、それはなさそうだ。少し、見てみたかった気がする。これは何?あれは?なんて質問に対しての答えだって、多少は用意していたのだが。
( イヴモンに限って…それはないか、 )
自問自答をして、苦笑した。
暖かな鼓動を感じながら、電車が来るのを待った。
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