『電車が参ります。白線の内側までさがってお待ちください』


 地鳴りのような唸る音に、ぴくりと反応したのはコロモンだった。大きな目をパチパチと見開いて、「なんだろ、あの音…」と首を傾げる。「あれ、デジモンの声じゃないか?」不安げに周りを見渡したツノモンに、「見て!!」コロモンはひと際大きな声を出し、太一の腕の中からもがき出ようとする。
 ―明るい光が突然洞窟内に差し込まれる。随分と大きな瞳のようだ。それは低いうなり声とともに暗い洞窟から現れる。コロモンの見た限りでは、どうやら随分と図体がでかいらしい。
 そして思考は最終地点に向かった。――…太一たちを守らなきゃ!


「あれを倒さなきゃ!」
「間違いない!ヴァンデモンの仲間だァ!」

「あっ!」


 不意をついて、コロモンとツノモンの二匹は、ぴょんと太一たちの腕から脱出し、線路に飛び出てしまった。子供たちは一斉に冷や汗が背中を伝った。―あぶない!轢かれてしまう!空は口で手を覆い、栞はさっと目を逸らした。
 瞬間、ぶわっと、嫌な感情が心の奥底に舞い込んできた。それは幼き日の、忘れもしない記憶。ドクドク、と血流が脈を打つ。


「……、おとう、さ、ん――」
―――…お父さーんっ、!!


 右手でペンダントを握り、左手で口元を覆い、目を瞑る。
 キキーッというブレーキ音と幼き日の己の声だけが、やけに耳に纏わりついた。思い出したくない現実が、目の前にあって目の前が歪む。栞は一歩、後ろにさがった。――怖かった。


( わたしは、 また何かを失ってしまうの? )

「…栞…?」
「…助け、なきゃ」
「栞、」


 そうして彼女は無意識に光を放った。それはいつもとは違い、微弱なものだったが、何かを守る願いには間違いなかった。その光は、違うことなく、線路に飛び出てしまったコロモンとツノモンを包み込んだ。
 子供たちは固唾を飲んで見守る。彼等に光は確かに見えたのだが――ガタンゴトン、と電車は真っ直ぐ線路の上を走って行った。


「コロ、モン…?」


 ぽつりと太一が呟いた。電車は、再び明るい光を放ちながら通り過ぎていく。二匹は、小さな光に包まれて、ホームに戻ってきた。流石に表情は硬いものだったが、どこも怪我はしていないようだった。
 ――良かった…。ほっと、胸をなで下ろす。二匹を守ったからといって、過去を払拭できるわけではないのだが、それでも止められなかった。もう二度と、目の前で、誰かを失くしたくなんてなかった。

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