「これは、そのー…ぬいぐるみ!なんです!」
「見れば分かるって」
「捨ててあったのを見つけたのよね!」
「そ、そうそう!山の奥深く、人も通わぬ辺境の地に捨ててあったのを観覧辛苦の末にようやく手に入れたのです!」
「人も通わないところに捨ててあったのを、どうやって見つけたんだ?」
「そっ、それくらい大変なところにあったってこと!」
丈の誤魔化しは、大体にして難しい言い回しを使い、藤山を混乱させようとしていたらしいが、彼とて大人だ。掻い摘んで分かる部分だけを拾い上げる。尤もらしい質問に、太一は笑顔で答えた。
「そうだよな、みんな!?」
「「そう!!」」
脳内が正常に動作していないのか、常時笑顔を貼り付けた子供たちは、見事に息がぴったりだった。
「ほ、ほら、妹のヒカリが急に来れなくなったでしょ?だから、キャンプ土産にと思って!アイツこういうの好きだから!」
慌てて言いつくろう子供たちの顔面は、ごまかすための笑みがぺったりとくっついていた。最後の決め手だったのは、太一のセリフだった。良いお兄ちゃんと思われたようだ。
「そうか。風邪引いてるんだったな」
「もうよくなりました!俺のオムレツ食わせてやったから!」
「お前が?」
「あ、ああ、うん!もちろん、ここに来る前にだけど!」
しかしチグハグの言葉は、いつぽろりとしてしまってもおかしくない。とりあえず、笑顔を向けておこう。子供の笑顔ほど、疑われないものもない。彼らは一瞬にして学習したのだった。
「妹のお土産か…」
結局は、その台詞に、ノックアウトらしかった。
「…僕がヌイグルミ?」
「容姿的には、一番近いと思うよ…」
ぐっと眉を寄せたイヴモンに、栞は小さく苦笑した。何せ毛のかたまりがヌイグルミサイズになっただけのもの。自分だって、イヴモン―ならぬフワモンと初めて会った時は、ぬいぐるみが喋っていると勘違いしたものだ。例えるならばテーマパークにいるキグルミみたいなもの。実際、このような愛らしい見た目の彼らを、生き物とは思わないだろう。
「まあいい。帰り支度ができたら、全員駐車場に集合だ!」
「はいっ!」
「ぐずぐずするなよー!」
それだけを告げると、藤山は来た道をUターンし、駐車場の方へと向かって行った。彼が去った瞬間、全員が安堵のため息をついたのは言うまでもない。
★ ★ ★
「―…この近くに八人目の子供がいるというのか?」
手すりに座ったテイルモンは、何も知らぬ無垢な人間から見れば、愛らしい子猫だった。しかし言葉そのものは極めて辛辣なものであり、隣を飛んでいたピコデビモンは少しだけ眉を寄せながら、振り返った。「そうですよね、ヴァンデモン様」御主人に対しては笑顔で。しかし振り返った先で、彼は何かに苦しみ、悶えていた。
「ど、どうなさいました!?」
「…あの光のかたまりが消えるまで、私は闇の世界に身を置くことにする…ッ!」
振り返る顔に、覇気はない。彼は持っていたタグを、ぽいっと宙に投げ捨てた。「あとは頼んだぞ!テイルモン!」彼女ほど優秀な部下もいない。テイルモンは素早い動作でタグと紋章を拾い上げると、ヴァンデモンに見えるように掲げ、「お任せを!ヴァンデモン様!」にこりと笑った。そうして闇の世界へと身を投じるヴァンデモンを見送り、彼女は、ヴァンデモンが嫌う―光のかたまりを見つめた。
( あの娘――『守人』。あの、光 )
あの光のかたまりと同じように、眩く光を放つ、彼女の体。それに反応した自分の体。まるで胎児が母親の温もりを求めるかのように、ゆっくりとこじ開けられる心。そして、首をふった。――間違いだ。彼女は守人なのだから、懐かしく思うのも、暖かさを求めてしまうのも、デジモンとしては当たり前の動作なのだ。故に、ヴァンデモンが彼女を求めるのも、理解できる。
す、っと身の軽さをもって、屋根へと飛び乗った。
「…まずはこの紋章を持ってして――八人目を探さなければ」
そして八人目が居る所に必ず選ばれし子供たちや、守人は現れる。―もう一度会えれば、この不可解に生じたバグは修繕されるのだろうか。
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