081 僕等はいつも失敗しては繰り返す
子供たちと同じように目を瞑る。疲れこそはあるものの、全く眠くならない。子供たちがタグと紋章を見つけて以来、眠りを必要としなくなったこの体は、確かに守人に近づいているのかもしれなかった。眠らなくても、眠くなどなりはしない。別に大した問題ではない。そう、思わなければ。
こうして全員が寝てしまったあとほど、寂しい時間もないのだけれど。
隣のタケルを見て、愛らしい寝顔にちょっとだけ顔をくしゃりと崩した。彼等とは、何かが違うから、白線で遮られてしまっている。同じ場所へときっと行けない。
人としての機能がどんどん薄れていく自分が、人と慣れ合うことなど許されるのだろうか。ああ、早く一馬に会いたい。こんなどろどろした想いが、渦を巻くのなら、一馬の手を握りたい。
『中野坂上、中野坂上。お出口は右側』――そのアナウンスに、栞は耽っていた頭をふるふると横に振った。「光子郎くん、中野坂上、」隣の光子郎を揺さぶるように肩に手をかけるが、彼はどうやら熟睡のようだった。「タケルくん…、起きて」今度は反対隣のタケルに向かうも、彼も同じようにぐっすりと夢の中で。
空や太一たちを起こそうと立ち上がろうとした瞬間、ぐらりと揺れたタケルの小さな体が、栞にもたれかかってきた。目をパチパチと見開いた。―これでは身動きがとれない。自分が動いてしまったら、タケルの頭が。空とは違って機転の利かない頭だから、どうしようとパニックになる。ここで降りなければ、みんなが――慌てて左右を見るも、全員が深い夢の中で幸せそうにしている。「そら、!」この位置から大きく叫んだところで彼女を夢から引きずり出すことができず――そうこうしている間に、戸は閉まり、電車は発進してしまった。どうしよう!ドクドクと脈打つ心臓を抑えるように、周りを見渡した。 ( も、もういい ) どうして起こしてくれなかったのだと責められるのは嫌だ。だったら、自分も寝たふりをすればいい。 嫌なやつだとは思うが、それ以外、どうすればいいか分からない。
目を瞑って、違うことを考える。ピアノの音。――そういえば、明日はピアノ塾があった。笠井は来るだろうか。栞は、彼の優しいピアノの音が大好きだった。彼本来が優しい人間だからこそ、出せる色なのだ。練習を重ねたとて、真似できることではない。――そして来週はロッサの練習試合がある。結人と約束したのだから見に行かなくてはいけない。それに――彼も帰ってくるようだから、尚更見に行きたい。
( ユンくん、元気かな… )
にこっと笑う顔が、とても好きだった。人懐っこい性格をしているせいか、特に栞には優しくしてくれたし、色々な知識も教えてくれる。
( …はやく、会いたいな )
人知れず、笑顔が浮かんだ。一馬の照れくさそうな笑顔も好きだし、結人の明るい笑顔も好きだ。英士の優しい笑顔も好きだ。彼らが共にサッカーをし、笑い合う表情が、栞には何よりだった。
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