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「……帰りの電車代…」
「そんなもん気にしてたら上手いもんも上手く感じなくなるぞ!」
「もうここまで来てしまったんだもの!食べましょう!」


 というよりも、丈や光子郎に何も言わないで来てしまって良かったのだろうか。きっと今頃血相を変えて探しているに違いない。心配そうに辺りを見回す栞に、ミミはどんっとハンバーガーを置いた。しかし目の前にあるハンバーガーやポテトを見ても、特に食欲が沸くわけではない。みんなでお金を出し合って購入したのだから、誰もが食べる権利を持ち合せているわけで。
 小さく千切ったポテトを、自分の腕の中で珍しそうに見つめているイヴモンの口まで運んであげた。


「ずるいぞ、ヤマトたち。毎日こんなおいしいもの食ってたなんて!」
「もうちょっと静かに食べろよ。他の客に気付かれたらどうするんだ」
「えー?誰も気になんてしてないみたいよ?」


 とりあえずとして端っこの見えにくい位置の席を陣取ったのだ。よっぽどのことがない限りバレはしないだろう。もそもそとリンゴジュースをすすりながら、ハンバーガーを千切り、イヴモンの口に入れた。


「栞、コレ美味シいネ」
「そう、かな。イヴモンが美味しいなら、良かった」
「栞は食べないの?」
「あんまりお腹空いてないから…」


 空の視線が栞を見ていたが、彼女の問いかけには首を横に振って曖昧に笑みを浮かべる。空は、小さく笑って、「そう?」…しかし心中では少し心配していた。
 寝てはいない、とイヴモンから聞かされたのは、コカトリモンの船の中だった。あの少し前に、ちょうど太一がグレイモンを進化させようとして、間違った勇気の使い方をしてしまい、栞の心が闇に負けた。あれから、ちょくちょく栞の変化を気にするようになった。今までも小食であったが、今はそれ以上にあまり食べなくなったのではないだろうか。――栞が寝ていない、という事実を知っているのは空だけであるから誰にも相談できることではない。しかし、先ほど電車の中で、全員が眠り過ごしてしまっていたのだとしたら、イコールで栞も寝ていた事に繋がる。やはり、こちらとあちらでは全てが変わってくるのだろうか。栞は、ちゃんと、寝ていたのだ。それは安心すべき点である。だからきっと…こちらでなら物も食べれるようになるだろう。気遣わしげな視線を向け、すぐにハンバーガーにかじりついた。


「あ!丈さんと光子郎さんだ!」
「おう、お前たちも何か食えよ。うめえぞ!」


 丈は目を見開いたまま固まっており、光子郎は呆れたようにため息をついている。急にいなくなるもんだから慌てて探しにきたというのに、この面子ときたら呑気に昼食を食べていた。「き、君たち、もしかして電車賃で…」震える拳を抑えながら、なるべく優しい声色を使おうと必死だった。


「うん、全部使っちゃった!」
「ごめーん!どうしてもハンバーガーの誘惑には勝てなかったのよー!」


 電車賃がなくなったということは、もう電車で帰る術を持たないと言うことだ。悪気も何もへったくれだと言わんばかりの言葉に、丈はわなわなとふるえた。

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