「音さげて!」
「え?何?おトイレ行きたいの?」
「そうじゃなくって、音ー!!」


 どこかの漫才でも見ているようである。栞が小さなため息をついたその時、ピコンピコンとニュースを知らせる音楽が重なった。


『番組の途中ですが、ここでニュースをお知らせします』


 そ、っと栞は顔をあげた。


『さきほど練馬区光が丘団地で、爆発事故があったようです』


 光が丘団地―爆発事故―その単語だけで、子供たちの表情がさっと真剣なものにすり替わった。一番後ろに座っていた太一たちはもっと聞こえるようにと前の席に身を乗り出した。


『そのための影響か、光が丘方面は、電話、無銭、光ケーブルなど一切の通信手段が不通となっていました。現在、現地からの情報を収集しており、何か分かり次第追ってお伝えします。なお、未確認情報ですが、事故現場で、象と大きな鳥が目撃されたという複数の証言を得ており、現在事実確認を急いでおります』


 思わず、ペンダントを握りしめ、子供たちの方を見た。全員、同じような表情で黙りこんでいる。
 象と鳥、というのは、おそらくマンモンとバードラモンのことを指すのだろう。間違いなく、先ほどの出来ごとである。
ここはデジタルワールドではない。デジモンたちが暴れたら、その分だけ何かが破壊されるし、―報道もされる。好奇の目にさらされてしまうかもしれない。子供たちが静まり返る中、「おっかねーなぁ、象だってよ!動物園から逃げ出したんだ!アッハハハ!」と、お兄さんだけが笑っていた。


「…う、ぅううう…」


 急に、太一の膝の上にいたコロモンが、ぶるぶると震えだした。何かを我慢するように、しかし耐え切れないというように。「コロモン?どうしたんだよ」太一は問いかける。具合でも悪くなってしまったんだろうか。
 …ん?具合、…?


「っまさか!!」


 一瞬の隙を見て、太一はひらりとかわした。しかし、太一の膝の上と言う受け止め場所をなくしたソレは、シートの上へと余すことなく落ちた。
 ―すぐさま、異臭が車内に立ちこめた。「くっせぇ!!」車はすぐに停止し、子供たちもお兄さんも外へと逃げ出した。ただ異物だけを、車内に残して。


「お、まえ、ら…っ」


 車内を見つめながら、お兄さんはわなわなとふるえた。それは、仕方のないことなのだろうが、栞の体がびくりと震える。

back next

ALICE+