「…一馬。ちゃっちゃと片づけて、ほら、そこも」
「あ、ああ。わるい」
「ったく、行けよな。おじさんと栞ちゃん待たせちゃだめだろ?」
ちらりともう一度だけ栞を見て、すぐに手元の片付けにかかった。英士の言うとおり、ちゃちゃっと片づけ、更に結人の言うとおり、彼等を待たせるわけにはいかない。彼等というよりは――栞を、と言った方がよいのかもしれないが。
汗で濡れたタオルをバックに突っ込んで、給水用のペットボトル、その他もろもろ、―ついでにユニフォームは脱いでベンチに放り―「一馬」―英士に叱られた。
「じゃあ、俺、」
「…うん、気を付けてね」
「また明日な!」
バックを持ち上げて、肩からかけた。ずしりとした重みが辛かったけれど、それよりも――「栞!」急いで彼女のもとに行きたかった。もちろん、グラウンドを出る際、ありがとうございましたと言うのを忘れずに。
「一馬、お疲れ。さ、帰ろうか」
「お、おう」
スーツ姿の父親にぽんぽんと頭を撫でられ、子供扱いにムッとしながらも、隣に視線を向けた。自分よりも少しだけ低い位置にある顔は、やはり、嬉しげにこちらに向けられていた。
父は特に何も言うことはなく、二人の姿を微笑ましげに見ていた。
「お疲れさま、一馬」
「あ、ああ。あの、栞、」
「会いたかった、」
栞は、みんなよりも一足先に、家族には会っていた。一馬に会っていた。打ち明けもしてしまった。しかし、再びデジタルワールドに戻り、ヴァンデモンと出会い、八人目がいると知り、この世界とあちらの世界が危機に瀕していることを知った。ずっと守ってくれていた世界を、家族を、 一馬を、今度は自分が守るのだと、理解した。――無事で、本当に良かった。そう感じたのは何も一馬だけではなかったのだ。
思いもよらない言葉に、一馬は目を見開き――それから視線をぶらさげた。頬が熱くなるのが否めない。 本当に変わったのだと実感した。いつもならこんなこと言わないのに。
「一馬…?」
「…うん、俺も」
首を傾げ、こちらを見てくる栞に、小さく笑いかける。友達や家族にしか見せない一馬の笑顔。友達といっても、小学校には会話をできる相手など居ないため、本当に英士や結人くらいなのだが。
そ、と手を差し伸べた。栞は目をパチパチと瞬かせ、それからイヴモンを片手で支えると、その手に触れた。暖かい手。ずっとずっとこの手を求めていた。小さな笑みを零す。
back next
ALICE+