「…あ、」


 見られてしまったのだ。赤く変貌した瞳、更に言えば、守人の意識に取り込まれた自分自身を。


「気味、わるかった…?」
「は?」
「だ、って…あんな、」


 選ばれし子供たちは、自分の変貌について何も触れない。けれど、実際、気味が悪いものではないか。灰色の瞳が、急に赤くなったり、性格が変わったり、 誰かを傷つけたり。 それが守人だと割り切る他ないから、恐らく子供たちは何も言わないのだろうが。事情を何も知らず、関係のない一馬にとって、それは受け入れがたい状況だろう。―拒絶、されないだろうか。ぎゅ、と服の裾を掴んだ。声は、怖れからか、震えてしまう。


「―俺にはよく分かんないけど」


 服を掴んでいた指に、一馬の手が触れた。同い年であるというのに、男の子だからか、少しばかり栞のものより大きく、骨ばっている。太一の手と、よく似ていて、栞はゆっくりと一馬の方を見る。太一とは違うものなのに、何故か、彼と重なった。


「けど栞は栞だから。気味が悪いなんて思わない。ただ爆発テロとか、英士が言ってたから、何かあったのかもって思っただけだ」


 一馬の手は暖かくて、今まで不浄なものが全て消え去るようだった。栞は服から手を離し、自分の手を握る一馬の手を握りしめた。
 「…ありがとう」ほんの小さな声だったから、一馬には届かなかった。


「一馬ー!栞ー!ごはんよ、おりてらっしゃい!」
「ようやくかよ…。俺腹減った…。 ほら、行くぞ、栞」


 軽やかなステップで一馬は部屋を出て行った。余程腹をすかせていたのだろう。栞はベッドから立ち上がり、彼の背中を見送った。いつもあの背中を見てきた。一馬の背は、いつの間にか、大きなものになっていた。


「栞?行かナいノ?」


 きょとんと首を傾げるイヴモンを抱き上げ、栞はその身体に顔を埋める。ふわふわの毛は、相変わらず温かさを持っていた。


「わっ?どウシたノ?」
「……るよ、」
「エ?」

「――…あなたは私が守る」


 ここにきて、初めてだった。こんなにも強い想いを決意したのは。 けれどやはり、これだけは変えられないし、曲げられない。何を犠牲にしたとしても、自分の何かを犠牲にしたとしても、 彼だけは、自分が守る、と。


17/07/27 訂正
11/11/07

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