『実は…未確認の正体不明デジモンが、芝浦に上陸したようなんです…』
「未、確認、の、デジ、モン…」
『皆さんに連絡して来てもらおうかと思ったんですが、僕だけでも向かおうかと』
「私、」
『栞さんの場所からだと結構遠いでしょう?ですが…進化のことを考えると…』


 光子郎一人で行かせるわけにはいかない。かといって夜は遅いし、おじとおばを説得させて向かうことも不可能だ。


「ちょっと待ってて、」


 少しだけ焦る気持ちを抑え、小さく告げれば、素直に頷く声が聞こえ、受話機を置いた。今おじがお風呂に入っていて、おばは最後の片付けに入っていた。ソファに居るのは一馬だけだった。「イヴモン、!」その名を呼べば、一馬以外誰もいないことを知っている白い毛だまりになりきっているイヴモンは、振り返る。きょとんと大きな空色の瞳を丸くさせ、どうしたの、なんて問いかけてくる。


「今、光子郎くんからで、」
「光子郎?」
「うん…。芝浦で、正体不明のデジモンが、上陸したって…」
「ヴァンデモンの、」
「多分…そう。他のみんなは眠っちゃってるって…どうしよう…」


 今にも泣きだしそうな声に、一馬はテレビから、そちらの方に視線を向けた。コウシロウ。明らかに男の子の名前だ。デジモン―というのが、イヴモンと同じような存在であることが理解できる。だから、聞き慣れない、ヴァンデモンという名も、デジモンなのだろう。イヴモンと同じようなものであるなら害があるとは思えないが、栞の表情からして、そうではないのだろう。
 芝浦はここからそれなりの場所にある。徒歩では向かったところで時間がかかるだけだ。車でなら、そこまで時間はかからないはずだ。


「光子郎くん、一人でも向かうつもりだって…。だけど、進化が、」
「…進化カ。栞の力が増しテイるなラ、離れテいタトしてモ進化も可能だケど…それニ、向こウとこチらでハ、勝手が違ウだろうシね。近くにいレるなラ、近くにいルのに越しタことハナいヨ」


 饒舌に話すイヴモンに驚いたし、話の内容は一向に分からないし、一馬の眉間に寄る皺は増える一方だった。「芝浦…」栞はぽつりと呟く。表情は晴れない。
 ――笑顔が、見たい。初めて会った時のような、春の木漏れ日のように暖かい笑顔が見たい。子供心ながら、純粋にそう思って、彼女の心を守ってきた。結果、彼女は自分にだけではあるが、笑顔を見せるようになってくれた。この先も、もしかしたら、家族にだって笑顔を見せてくれるかもしれない。――なのに、こんな表情。

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