「ねえ藤山先生!途中下車してもいいかな?」
「はあ?途中下車?」
突拍子もないことを言い出した生徒に、藤山は腰に手をあて、首を横に振った。ダメ、ということだ。
「先生はみんなを連れて帰る義務があるんだ」
「そんなこと言わないで、ねえ頼むよ!光が丘団地の近くでいいからさ!」
「光が丘…?なんでそんなところに」
子供たちからしてみれば、一刻も早く、八人目を探すべく行かなければならない場所だが、藤山からしてみたら何の関係性も見いだせない場所だった。思わず寄せられた眉に、太一は内心焦りながら、「む、昔住んでたんだ」と飛び出た言葉に任せることにした。
「なんか懐かしくなったもんで!」
「うーん…」
「お願いします!」
駆けてきた残りの子供たちは、太一と同じように汚らしいぬいぐるみを抱えていた。みんな揃って頭をさげる。その中に、栞がいたことに、藤山は大層驚いた。「お…まえらもか?」少しだけ声が上ずったのは、そのせいだろう。
「光が丘だったら、近くを通るなぁ。ええ…と関越自動車道から、外観道路に入る時に大泉を通りますからそこからだと光が丘まで歩いていける距離ですね」
運転手の思わぬ手助けに、光子郎と空と栞は顔を合わせて小さな笑みを浮かべた。
「じゃあ運転手さん!そこでおろして!」
「こら!まだ許可したわけじゃないぞ!」
案外、藤山の説得に時間がかかりそうだ。その時、タケルとヤマトが顔を合わせ、同じように頷いた。「先生!」少しだけ涙の含んだ声だった。
「お願いします!どうしても見ておきたいんです…!両親が離婚する前、家族仲良く暮らしてた場所を…!」
「う…ううっ…お兄ちゃんッ」
ヤマトの言葉に耐え切れなくなったタケルは、浮かび上がった涙を隠すように、ヤマトの腕の中へと飛び込んだ。それを、兄はしっかりと受け止める。
大人のエゴで勝手に別れさせられた兄弟に、涙ながらに訴えかけられては、何とも言えなくなる。うろたえる藤山に、丈は駆け寄った。
「先生!お願いします!光が丘で下ろしてください!僕が責任を持って送り届けますから!!」
「…ま、六年の城戸が付いてるなら大丈夫か。なら八神、石田、その弟、城戸の4名を光が丘で下ろそう」
その言葉に、太一は目を丸くさせる。それでは全員降りれなくなってしまう。しかし8人全員、という言い訳をこれ以上作るのは、藤山に対していらぬ誤解を生んでしまう――「…あの」――太一が、「実は俺たち7人で行かなければ」なんて下手な言い訳を口にしようとしていた時だった。
控え目な声が、空の隣から聞こえた。
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