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 車で移動中、栞はひとことも喋らなかった。早く行かなければならないという焦りだけが、心をつき動かす。


「栞、そろそろ着くぞ。どこら辺に行けばいいんだ?」
「あ、え、っと…」


 東京の夜は更けないと言っても過言ではなさそうだ。夜もだいぶ遅くなったはずなのに、街から燈される灯りが、辺りを照らしていた。芝浦と言っても、光子郎の居る場所は――「そこに、停めて下さい…!」ちょうど栞が指差した部分は駐車できるスぺースがあったので、縦列駐車をして車を停める。


「栞、」
「おじさんは、そこで待っててください」
「え、ちょっと…おい、栞!」
「絶対、動かないでください。すぐ、戻ってきます」


 いつになく声には余裕があったし、歯切れが良かった。おじは栞の様子にただただ驚いていた。その間に、彼女は白いぬいぐるみを抱きかかえたまま、夜の町へと消えていってしまった。窓から顔を出す。彼女の黒い髪は、闇に同化していた。


「あの子は、特別、か」


 まだ、生きていた頃の義弟の声が甦る。座席をゆっくりと後ろに倒し、目を瞑った。確かに、特別であるが故に、前の引き取り手から見捨てられてしまった。しかし、その特別さが――今のあの子を動かす何かになっているのだろう。
 あの子を生み、直ぐに亡くなった妹は、あの子を抱きしめて泣いていた。嬉しくて、嬉しくて、泣いていた。今でも思い出すことが出来る。


「それを…志貴は知っていたというのか…?だから、あの子は、独りですべてを抱えこんでいた、と?」


 変なもやを振り払うように頭をふって、ラジオをつけた。腕で目蓋を覆う。


―――…現在入ってきた情報によると、芝浦に、怪獣と思われる存在が―…。


 『芝浦』―『怪獣』。その二つの言葉に、おじは飛び起きた。なぜ、こうも合致するのだろう。あの子が、芝浦に行きたいと言った理由とは?
 今はとにかく、あの子が無事に戻ってくることを祈るだけだ。


17/07/27 訂正
11/11/10

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