「―良い夜ですね、守人」
「っ何者ダ!?」
素早く振り返ったのはイヴモンの方だったが、彼の目の前に佇む存在は――デジモンは、ただ何もする気はないように、その場に立っていただけだった。やがて栞は振り返る。足の痛みは止んでいた。
「あな、たは―?」
「あなたならご存知のはずです、守人」
試すように言われ、栞は口ごもる。彼は―彼の名は、 確かに、分かる。脳内に溢れるデータの中から一つだけ取り出してみれば、目の前の存在と合致した。
「ウィザー、モン」
「ええ、正解です。あなたは確かに、守人だ」
「何の用ダ、ウィザーモン」
ウィザーモンから敵意を感じることができず、すっかり気を許しているであろう栞を守るように、イヴモンは目の前の存在をねめつけた。語調は冷静だというのに、声は随分と荒々しかった。
「そのように声を荒立たせないでいただきたい。守人をどうこうしようなど、私は考えていません。むしろ――あなたにヴァンデモンのところに行かれては困るのですから」
「寝言は寝てカラ言エ。ヴァンデモンの手下であルお前の言う事なぞ信じルものカ!」
「イヴモン…」
「栞も!絆されチャだめダ!向こウは君を狙っテキているンだかラ!」
蒼色の綺麗な双眼に叱咤され、思わず縮こまった。くすりという笑い声が聞こえ、栞はそちらへと視線を向ける。―やはり敵意など存在しなくて、恐怖がどこかへと消えていく。
「だが確かにあなたはもう少し危機感を持たれた方がよろしいでしょう」
「え…?」
「私以外にヴァンデモンの手下はたくさんいます。その誰もがあなたを狙っているのだから」
「あなた、は、違うんだよね…?」
「栞ッ!?」
真っ直ぐに己を見つめる瞳に、嘘偽りなどありはしなかった。栞が一歩近づけば、ウィザーモンは、ふと笑みを浮かべてくれた。
back next
ALICE+