「これをヴァンデモンに渡すわけにはいかない」
「でもお前はヴァンデモンの手下だ」
「違う。私は――」


 ウィザーモンの脳裏をよぎったのは、かつての自分を救った、一匹のデジモンだった。しかしそれを彼等に語るつもりはない。守人が話せと命じるのならば、有無も言わず、口を割るつもりではいるが。
 「言いたくないなら、いいよ」目の前の幼い少女は、そう言ってくれた。ウィザーモンは僅かながら、鋭い目つきを和らげた。


「すみません、守人」
「なに、が…?」
「あなたを利用させていただきたい」
「え?」
「おまえ――」


 キッとイヴモンの眼力が強くなった。利用するだなんて―やはり。しかし、思いに反して、ウィザーモンは緩やかに首を横にふるだけだった。


「確証はありません。ただし、あなたの力を借りれば、彼女は思い出すかもしれないのです」
「彼、女?」
「あなたは全てのデジモンに等しい命を与える。あなたが我々のすべてである。だとしたら――あなたが願ってくれるのならば、彼女は――過去を思い出すかもしれない。それが、八人目を探す路へと繋がる」


 彼にとって無意識かもしれないが、『彼女』―そう告げる時、少しだけ声色が優しくなっていた。八人目のことも重要であるし、何より、このデジモンに力になりたいと栞は思った。こんなにも誰かを思えるデジモンが、嘘をついているはずなどありはしない。
 栞の灰色の瞳が、イヴモンへと向けられた。彼は、少しだけムスッとしていた。その横顔が栞の好きにすればいいと、アリアリと語っていた。


「…分かった。私で出来るなら、手伝うよ」
「守人―…」
「ちょっと、待ってて」


 控え目ににこりと笑って、栞は家の方にかけていった。靴を履いてくるつもりだろう。―やはり守人は変わらない慈悲深さを持っている。ほっと胸をなで下ろすかのように、肩の力を抜いた。


「…とりあえずは、お前のことを信じていてあげるよ」
「―それは、ありがたい」
「でも、少しでもおかしな真似をしたら―僕の全てを解き放ってでも、お前を殺す。いいね」
「そのようなことはない。私に――あのお方はどうにもできない。それに…あのような暖かく、愛らしい笑みを、闇に染めることなど、できはしない」


 全てのデジモンは、只管に守人を慕う。彼女が彼等にとって秩序であるからだ。―「全てがお前のようであったなら」ぽつりとイヴモンは呟いた。


「何か?」
「……気のセいジゃナイ?」


 惚けたように言ったイヴモンを見てから、もう一度栞の方へと視線を向ける。庭先から見えた一馬に対し、両手を合わせていた。やがて彼が、不承不承ながらも頷いたのを見て、こちらへと戻って来る。
 ――暖かくて、優しい、風と共に。


17/07/27 訂正
11/12/19

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