091 つないでいてね
「おう、ヤマトか!テレビ見たか?」
電話は全て太一が自分で受け取ることにしていた。おそらく、他の子供たちから頻繁に電話がかかってくるであろうと予測していたからである。
先ほど、丈から電話があり、名簿に載っている名前全てに連絡をしたが、誰も光が丘から引っ越した者はいなかったという。あるとしたら太一が持っている名簿の中に記載されている者ではないかと。そう言われたのなら、どこに仕舞ったか分からない名簿を探さなければならなかった。しかしやはり本末転倒、どこにあるかも分からないまま、太一はソファに座りこんだ。机上におかれたスイカを手にとり、一齧り。スイカ独特の甘みが体中を駆け巡っていった。左手でリモコンを取って、テレビをつける。ニュースも頻繁に見て、デジモンたちの動きを把握しておかなければならなかった。太一の耳に飛び込んできたニュースは、渋谷で起こったという事件と貧血で倒れる女性の事件が立て続けに起きているということだった。その時、タイミングよく八神家に電話が鳴り響いた。
そして、話は冒頭に戻る。
『見たも何も、俺達さっきまで渋谷にいたんだ!』
「え?じゃ、今テレビでやってたのって…」
もし両親に聞かれたらまずい話だ。太一は慌てて、自分とヒカリの部屋に入った。
『ヴァンデモンに襲われた…。アイツ、自分の手下を消したんだ!』
「なんだって!?」
『太一、アイツ、本当に何するか分からないぞ。早く八人目を探さないと、栞だってどうなるか分からない!』
「ヴァンデモンに先に見つけられたら、八人目はやられ、栞は…」
見知らぬ八人目のシルエットと、恥ずかしそうに笑う栞のシルエットが、太一の前に浮かんだ。―はやく、見つけないと。 ぱちん、とシャボン玉のように、弾けて消えてしまった二人のシルエットを、太一は掴むように拳を握りしめた。
★ ★ ★
ぴくりと、テイルモンは耳をたてた。じっと一つの部屋を―否、一人の少女を見つめていた大きな瞳は、背後へと向けられる。「ウィザーモンか」ふわりとなだらかな風が舞いこみ、ウィザーモンは静かに着地した。
「八人目は見つかったのか?」
「…いえ、八人目は見つかりませんでした。その代わり、これを」
ウィザーモンは懐から、小型の機械を取り出した。「デジヴァイス!?」思わずテイルモンは手摺から飛び降り、ウィザーモンに近寄った。
「何故それを!?」
「有明の森のカラスの巣の中で見つけました」
「では八人目もそのあたりにいるんだな?」
「…いえ。八人目は――」
「八人目は?」
「それは、テイルモン、」
「なんだ?」
てちてち、と愛らしい足音を響かせながら、テイルモンはウィザーモンに近寄った。ウィザーモンの表情は変わらない。
「八人目の居場所は――」
勿体ぶるな、そう言いたげにテイルモンの鋭い視線が、ウィザーモンに突き刺さる。彼はただテイルモンを見つめたまま、「あなたの心の中にあるのではないでしょうか」、そう言った。
「心の――中?」
「あなたの心は閉ざされている。その閉ざされた心の奥に、八人目の居場所を知る鍵があるのではないですか?」
「……」
「幼い昔の記憶を取り戻すのが怖いのですか?どうして取り戻そうとしないのですか?失った記憶を取り戻すのです!恐れずに、自分の過去を思い出すのです!」
キッとテイルモンが顔をあげ、鋭い爪をウィザーモンに向けた。
「お前、ヴァンデモンに何か言われたのか!?」
「私はあなたと共に闘うもの。ヴァンデモンは関係ない。――あなたと出会うまでは、私はいつも独りだった。友達もできず、独りで旅をしていた。飢えて、倒れて、孤独で――誰も助けてくれなくて、私の一生も呆気なく終わると思っていたのです。その時あなたが――」
懐かしそうに空を見上げるウィザーモンに、テイルモンは爪をしまい、敵意を削いだ。そのようなことをずっと覚えていたというのか。
「危うく、心を閉ざしたまま死ぬところだった。そんな私を孤独から解放してくれたのも、テイルモン、あなただった。そう、その時、あなたは言っていた――」
―――…ずっとずっと、待って待って、探して探して。でも…―会えない。 誰だっただろう…。思い出せないけど、誰かを待っていたんだ。
「待つ?私が?」
「ええ。あなたはそう言っていた」
「私は誰を待っていたのだ…?誰を探していたのだ…?」
不意に、優しく心地よい風が、ウィザーモンとテイルモンの狭間をすり抜けていく。テイルモンは顔をあげ、その風をどこか懐かしげに感じた。
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