078 one dolce
こうして画期的な乗り物に乗るのも随分と久しぶりだった。何故か子供たちは、あんなに当たり前のように乗っていたバスに感動を覚え、座る時ですらいちいち、おお、と歓声をあげた。
栞は行きと同じように窓側に腰をおろし、その隣に空が腰をかける。行きと違う箇所は、通路を挟んで隣に太一と光子郎が、後ろの席に丈が座っているというところだった。
ピヨモンは成熟期のためさすがに抱っこ出来ないということで、ゴマモンとともに網棚の上に荷物とともに乗せられた。イヴモンは栞の膝の上で抱っこされているため、大人しく丸まっている。こうしていると、ぬいぐるみというよりは、ただの毛玉だった。
「大丈夫です」―光子郎は軽いタッチでキーボードやマウスを動かしながら、そう呟いた「ちゃんと動作しています」通路の真ん中に立っている太一を見上げた。
「そうか」
「デジヴァイスもちゃんと動いているわ」
ピコピコとけたたましい機械音を鳴らしながら、とある一点で赤く点滅している。どうやらこちらの世界に来ても、このデジヴァイスは機動しているし、光子郎のパソコンに内蔵されたアナライザーもきちんと作動するようだ。
「向こうも同じように八人目を見つけるための何かは持っているはずだし…デジヴァイスが機動しないと、危険だもんね…」
「その通りだ。それじゃなくても光が丘ってだけでヒントも何もあったもんじゃないんだからな」
「なんだお前たち。今そんなもんが流行ってんのか?」
子供たちが持つ奇妙な機械に興味を持ったのか、藤山は妙にニコニコと笑いながら、彼らに近づいた。ぴきっと、一斉に子供たちの表情がかたまった。
「いやあ!別にそういうわけじゃあ…」
「ちょっと見せてみろよ」
「ああ、だめだめ!」
「けちけちすんな」
慌てて身振り手振りで否定する太一の頭を押さえつけ、藤山は空が持つデジヴァイスを覗き込む。
「光が丘で降ろしてやるんだからさ」
その一言を付け足されれば、彼らはぐうの音も出なかった。確かにその恩義はある。光が丘で降ろしてもらえなければ、八人目の手がかりもあったものじゃない。差し出された大きな手のひらに、空はひきつった表情のまま、デジヴァイスを乗せた。
「お。さすが武ノ内。誰かさんと違って素直だなぁ」
手渡されて藤山は上機嫌になったが、その反面、空はあちゃーと額に手を当てた。栞は小さく笑みを浮かべた。
別にデジヴァイスを見せるくらいはどうってことはない。彼らにその全貌はわかりはしないのだから。
「見せるくらいいいじゃないですか」
「なーんか悪いデジモンに襲われてる気分になってさあ」
『デジモン』という箇所はよく分からないだろうが、『悪い』という単語に藤山は反応した。空に「ありがとな」とお礼を述べ、彼女にデジヴァイスを返すと恐ろしいくらい笑みを貼り付け、太一に近寄った。
「藤山先生が悪いデジモンですか」
「悪い悪い!だーって宿題とか忘れたりするとすぐマッサージ攻撃とかするんだぜ?」
「最後の方だけ聞こえた」
にーっこりと笑った彼は、太一の脇腹に手をおくと、そのまま上下に動かす。いわゆるコチョコチョ攻撃というやつだ。くすぐったさからか、太一は激しく笑った。
「まったく、バカなんだから…」
「…ははは」
思わず漏れたのはため息と、苦笑だった。
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