「テイルモン…。お前のことはそうだとしても、そっちのデジモンは?」
「ウィザーモンは私の仲間だ。それに、デジヴァイスを見つけてきたのはコイツだ」
「そんなこと、信用できるか!」
「や、八神くん。ウィザーモンは、!」
「いや、私は構いません、守人。…信じてもらえずともよいのです。――私は、テイルモンについていくだけだ」


 栞には優しく言ったにも関わらず、太一には少々声色が冷たかった。でも、と言いかけた栞に柔らかな笑みを浮かべ、太一に向き直る。未だ警戒心を解けずにいる太一は、負けじと睨み返すようにウィザーモンを見つめた。


「これを――デジヴァイスは君が持っていてくれ」
「どうして太一にデジヴァイスを?」


 八人目の―否、ヒカリのデジヴァイスを、太一に差し出した。太一が受け取れずにいると、その手に押し込むように、握らせる。そしてアグモンの問いに、しれっと答えた。


「ヒカリが八人目の子供で、テイルモンがそのデジモンだとヴァンデモンに知られると危険です。君が持っていれば、ヒカリとテイルモンは安全だ。すなわち、それは守人の安全も意味します」
「―わかった。これは俺が預かる」


 少なくとも、ウィザーモンの忠誠心に嘘はない。彼の瞳が、三人の安全を願っている。誰よりもテイルモンを思い、ただ彼女にだけその思いを貫き通す。太一は受け取った決意を、強く握り締めた。


「で、これからどうする?」
「ヒカリの紋章が必要だ。―本物の」
「本物の?」


 首をかしげる太一と栞に、テイルモンは懐から取り出したタグを掲げてみせた。ピンク色の紋章は―光の紋章は、確実にタグにはまっているはずなのだが。


「これはヒカリのデジヴァイスを探すためのコピー。ヒカリの本物の紋章は、ヴァンデモンが持っている」
「それって…」
「そう。本物を取り返さねば」
「君たちはここで待っていてくれ」
「でも、危ないよっ、」


 一歩前に出て、思わずそう言えば。


「…大丈夫です。心配はない。あなたが願ってくれているのならば」


 振り返るウィザーモンは笑みを浮かべていた。とても、優しい笑みだった。何か言わなければ、とか、止めなければならないのに、栞はそれ以上、何も言えない。言ってはいけない気がしたのだ。


「夜はアイツの本領が発揮されル時間帯だよ。いクらなンデも危険なんジャなイノ?」
「ッだったら俺も行くよ!ヴァンデモンの居場所はどこなんだ!」
「だめだ。危険すぎる。―それに言っただろう?守人の願いを受けたデジモンは、何よりも尊い力を得る。君たちがその証だ」


 ウィザーモンはテイルモンを抱え込むと、空へと舞い上がる。夜空を舞う姿に、どこか、苦しみを覚えてしまった。ペンダントを握り締め、その背中を見送ることしかできなかった。


「テイルモーン!!」
「――行っちゃった…」
「あいつらだけで大丈夫かな…」
「…信じるしか、ないよね」
「栞、」


 ずっと空を見上げていた栞は、殆ど泣いてしまいそうな声で、小さく呟いた。小さな姿に、思わず、手を伸ばしかけ――直ぐに手を引っ込めた。栞が、すぐに、笑みを浮かべたからだ。そっと隣にある小さな存在のほうに向き直った。


「あ、の、ヒカリちゃん、」
「は、はい」
「―…大丈夫だよ。ヒカリちゃんも、テイルモンも、――絶対、危険な目には遭わせないから」


 もしかしたら、最初から覚悟は決めていたのかもしれない。デビモンと対峙した時、エテモンと対峙した時。どの時だって、最初から覚悟はしていたのかもしれない。自分のせいで誰かが傷つく姿なんて、もう、見たくないから。言葉には、自分が守る、という意味を込めて言った。


「だから――テイルモンを幸せにしてあげてくれるかな…?」


 あの傷付いた瞳は、寂しそうな瞳は、パートナーである彼女にしか癒せない傷だ。おそらく、テイルモンはヒカリと過ごすことでその生に意味を見いだせる。彼女の傷は癒えるだろう。栞が問いかければ、ヒカリは、目をぱちりと瞬かせ、それから大きく頷いた。


17/07/27 訂正
11/01/15

back next

ALICE+