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「ただいま、」
小さな声で、玄関を開けると、リビングにいたおばが勢いよく栞のもとまで来た。彼女が特に何も怪我をしていないと悟ると、ほっと息を下す。栞は、気まずそうに視線を斜め下にずらし、更に地面に向けた。
「―…おかえり、栞」
おばの暖かな声に包まれ、栞は何だか泣きたくなってしまった。―テイルモンは、こんな暖かさも知らぬままヴァンデモンのもとにたどり着き、傷つき、―それでもひたすらヒカリという希望に会えることだけを待っていた。
これ以上、誰も苦しませたくない。
「…友達の、ところに、忘れもの、しちゃって」
「ええ。一馬から聞いたわ。急に飛び出ていくからビックリしたのよ。さあご飯を温め直しましょう、おなか、空いたでしょう」
恐らく、彼女が飛び出していったとき、不自然な行動だっただろう。急に立ち上がって、間髪入れず、家を走り去ったのだから。しかし、おばは、極々自然に彼女に向かった。ぽん、と一つ肩を叩かれ、おばは笑顔で再びダイニングキッチンへと戻っていく。その後ろ姿を、見つめた。知らぬはずの―母の温もりを感じた。
「―太一とアグモンが行ったンだかラ、大丈夫だヨ。そレにウィザーモンもテイルモンだっテ、強いカラ」
「…うん」
「大丈夫。ソう信ジようヨ」
腕の中のイヴモンは、にこ、と笑って栞の瞳を覗き込んだ。不安な色をした彼女の瞳に、真っ白い彼の毛並が映し出される。正直笑えるような状況ではないし、心配で胸がいっぱいだけど、差し込んだ彼という光が、心にできた隙間を埋めてくれた。だから、ほんの小さく頷いた。
「栞、さ、ご飯食べちゃいなさい」
ひょっこりとおばが顔を出す。「はい」と小さく返事をする。温め直してくれたであろう本日の夕食を手にもち、栞に笑みを向けた。いつでも、暖かい人だと、どこか遠くに感じた。
バタン!と大きな音が二階から響き渡って、思わずおばと栞は二人揃って首をかしげた。バタバタバタ…。おじも一馬も、無駄に足音を響かせる人間ではない―が、この家に四人しか存在しない限り、この足音の持ち主は二人のうちどちらかでしかない――「栞、」、声変りをしていないため、まだあどけなく高い声、この声の持ち主は紛れもない真田家の長男である一馬しかいない。彼はおばと同じく、栞に何の傷もないことを悟るとほっと胸をなでおろしたように息をついた。
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