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 夜空に星々が散りばめられ、眩い道しるべとなっていた。彼はその下に君臨する。確かにその形容は吸血鬼と称えるが相応しい容貌だった。
 ヴァンデモンの紅を引いたように真っ赤に染まる唇が、ゆっくりと笑みの形を象った。目の前に伏せるデジモンを抱きかかえる子供を見て確信した。――やはりテイルモンは八匹目のデジモンだ!
 途端に漏れ出す、地面を這いずるような低い笑い声に、一瞬だけ太一は恐怖心を覚え、傷ついたアグモンの体を強く抱きしめた。


「なるほど。わざわざ選ばれし子供がやってきたということは―やはりテイルモンが八匹目ということか」
「なっ、何を言っているんだ!私は八匹目なんかじゃない!!」


 その言葉に、テイルモンは傍から見てもわかるほど、動揺を見せた。否、ヴァンデモン自身、聞かずとももはや分かりきっていることだった。―彼女からほのかに香った漆黒の闇。やはり、自然と口角があがった。


「それはこれからわかることだ…」
「どういうことだ!」
「テイルモンを囮にして、八人目をおびき出す。…子供たちを集めてこいつとご対面ということだ!」


 彼の脳内から、喝さいが鳴りやまない。響き渡る甘美な誘いに、酔いしれるように、高らかに腕を広げた。マントの隙間から幾重もの蝙蝠が溢れだし、テイルモンの小さな体を攫う。一瞬の出来事に瞑目した太一は、すぐさまテイルモンが奪われたのだと悟った。『囮』―その言葉の意味を理解し、先ほどヴァンデモンの手により海中へと没したであろうウィザーモンのことを思った。


「紋章などなくとも八人目はすぐ見つかる!八人目をわが手中に収めれば、あのお優しい娘のことだ。自らを犠牲にしたとて、わが前に膝をつくことになろう!」
「っ、卑怯だぞ、ヴァンデモン!!」


 必死に手を伸ばしても、テイルモンに届きはしない。そんなことは分かっている。だからこそ太一は地団駄を踏みながら、咆哮するのだ。


「また会おう」


 ヴァンデモンは笑う。八人目を―愛しきパートナーを思い、抵抗し続けるテイルモンをあざ笑うかのように。使命を知らぬうちに全うする幼き少女を、もはや手に入れたものと同様の想いを抱きながら。
 夜空に星々が散りばめられ、眩い道しるべとなっていた。彼はいずれその全てを手のひらで操り、両方の世界の統治者となり、―すべては闇に染まる。今は輝いているが良い。いずれはその全ての眩しさも失せる闇の世界に代わるのだから。


「待てー!!テイルモーン!!」
「太一っ!!」

―――…テイルモンを守って。


 太一は拳を固く握り、地面を叩きつける。畜生、畜生、みにくい言葉が口から洩れた。まも、れなかった。八人目の―大切な妹のパートナーを。何もできなかった。ただ、見ているだけしか、何も。――どこかでテイルモンの名を呼びながら無事の帰宅を待ち続ける、少女の声が聞こえた気がした。

 霧が、お台場全体を包み込み始めた。


17/07/27 訂正
12/02/29

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