「テレビもおかしい、みたい」
「……ネ、栞」
「え、なに…?―って、イヴモン話ちゃダメだよ…、!」
「…こノ霧、ヤなカンジがスるヨ」
「え?」


 真っ白な眉を怪訝そうに寄せ、唸るように彼はつぶやいた。視線は、外へ向けられていた。―渦巻くような霧は、確かに根強くお台場に住み着いていった。胃のあたりをぐっと押されたような感覚に、やっぱり、顔をしかめた。

 ガチャ―。


「ただいま」


 スーツに身を引き締めたおじが、リビングのドアを開けた。朝早く出かけていったはずのおじが、どうしてここにいるのだろうか。栞の視線に気づいたのか、おじは柔らかに眉根をさげ、椅子の上にバックを置いた。


「この霧のせいで、交通規制がかかって会社に行けなかったんだよ」
「あら、そんなに濃いの?電話も調子悪くて、困っちゃうわね」
「濃霧でか?」
「テレビも…映りません…」
「本当か。全く今年は一体どうなってるんだろうなぁ…」


 窓際に寄ったおじが、濃霧を確認するように、空を見上げた。


「この調子じゃ、今日の練習試合も延期かしらね…」
「まあ、そのうち治まるだろう」


 ネクタイを緩め、おばに渡す。その行為を見ながら、栞はテレビを消した。雑音は、ねっとりと耳にまとわりついていた。まるで呪いの呪文のように、耳元でザーザーという音が残る。鬱陶しくて、顔を振り、立ち上がった。すかさず、おばは栞を振り返る。心配そうに自分を見やる視線に、何故だかドキリとした。――イタズラをした子供が、親に見つかった感覚だ。


「栞?部屋に戻るの?」
「―え、えっと…ちょっと外に…行ってこようかな、って」
「何言ってるの、こんな濃霧じゃ外に出たら危険よ。家にいなさい」
「あ、は、はい…」
「こらこら。栞の行動を制限しちゃいけないだろう」


 少し、外の様子を見たいのは確かだった。もしかしたら、この霧の原因は――栞たちにとって、身近なものかもしれないからだ。
 気づかれない程度に、イヴモンが腕の中でもぞりと動き、栞の目を見た。それは同じように諌めるものだった。思わずうっと息を飲んだ。

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