「栞…、―大丈夫よ、私たちが必ず守るからね…。大丈夫よ」


 栞が震える原因が、恐怖からかと勘違いしたのか、おばは彼女の小さな体を抱きしめた。暖かさに包まれ、赤く染まった瞳が、再びもとに戻る。柔らかな肢体が、自分のものよりも震えていることに、栞は気づいた。


(怖い、んだ。それはそうだ。今まで見たこともないようなバケモノが、急に現れたら、怖いに決まってる――)


 それでも、彼女は『母』として栞を守ろうとしてくれている。


「! 前の家に入っていくぞ!」
「…どうしましょう、ここにもそのうち…」


 前の家に入っていくバケモンの軍団。何かを探すように、くまなく一軒一軒を確かめていた。そして出てくる時には住民を連れていくのだ。――ならばこの家も例外ではない。入ってくるのは時間の問題だ。
 おじが、ふ、と息を吐いた。


「…栞、部屋に鍵をかけて閉じこもっていろ」
「え…?」
「俺たちが囮になろう。じっと、静かにしているんだよ」


 窓から外の様子を見守りながら、おじは小さな声で呟く。それは『父』として、守ろうとしてくれている姿だった。一家の大黒柱として逃げ出すわけにはいかない。彼には家族を守る義務があるのだから。おそらく妻は寄り添ってくれるだろう。けれど愛する妹から預かった『姪』を、今やかわいい我が『娘』危険に晒すわけにはいかなかった。
 栞は俯いていた顔を、ゆっくりとあげる。恐怖に滲む二人の顔は、それでも、たくましかった。確かにそこには、自分を思う『両親』がいた。

 ドクン、と心臓が鳴り響く。 
 守りたい。優しいこの人たちを、私『が』、守りたい。


―――…解放をのぞむのだ。
「栞、はやく――― 栞?」
「いや、です、」
「栞」
―――…解放をのぞむのだ。


 言い聞かせるように、名前を吐き出せば、彼女は精一杯の否定の意を込めて横に首をふった。服の裾を握り締める手は震えているが、頑なだった。
 「栞!」聴かせるように、おじは彼女の名を強く呼ぶのに、彼女は首を横に振ったまま動こうとしない。そうなったら無理やりにでもと腕を引っ張った時、ここの住民にはない、少年のように澄んだ声の溜息が聞こえた。


17/07/31 訂正
12/04/01

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