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目の前には、バケモンに連れられた人々の長い列がつながっていた。あとで絶対に助けるから。今は何もできぬ悔しさに拳をぎゅっと握り締め、石垣の影に隠れるように座り込んだ。
視界が効かない以上、徒歩で向かおうと提言するおじに対し、イヴモンは頑なにそれを拒んだ。何かしら媒体がなければ栞を守るものはない。逆に何かしら媒体を通せば、栞の力が覆いかぶさり、光のベールとなって彼女を守るのだ。
「だが霧の中では視界が悪い。運転していくのは―」
「…ペンダント」
青い瞳がおばの手の内にある赤色のペンダントに向けられる。
「さっキも言っタトおり、ソれにハ力が宿っテる。栞の進むべキ道を示しテくレル」
静かに放たれたその言葉に、栞はハッとした。初めてデジタルワールドに訪れた時、どうして自分はミミの位置が分かったのだろう。『守人』の特権だと言われればそれまでだが、ペンダントが導いてくれたと考えると納得できる。
「栞が願えバ、ソレは君に従ウ」
「――うん」
おばが栞にペンダントを手渡した。毛玉みたいなぬいぐるみが言語を理解し、発するのだ。これ以上、もう何か不可思議な出来事が起こったとしても何も思わない、否思えないだろう。
渡されたペンダントは、おばの温もりを持っていて、どこか気恥しく感じる。
――お願い。教えて。
ぎゅう、と胸元で強く握り締めた。その姿は、神に祈りを捧げるものと酷似していた。
「―――」
「え…?あなた?」
おばは、愕然と呟かれたおじの声に反応した。しかし彼の視線は、目の前の栞へと注がれている。おばの反応には見向きもしなかった。夫はおそらく――今は亡き、義妹の姿を、栞の中に見たのだろう。おば自身、よく覚えている。年はさほど離れてはいなかっただろうが、何分、大人しくて控えめで―それこそ今の栞のような性格をしていた。旦那にとって、兄としては目に入れても痛くないほど可愛かったのだろう。栞を産んで、病死した際の落ち込みようは見ていられないほど酷かったくらいだ。
「ほんとうに――あいつの娘なんだな」
「…朱美さんに、何から何までそっくりだものね」
小さな笑みを浮かべて寄り添えば、おじは少しだけ苦笑した。
「あっ」
とその時、栞が小さな声をあげた。二人揃って振り返れば、彼女の手の内から暖かな光が漏れていることに気づいた。それは目に見えるものではなかったが、脳内に直接刻み込まれる。
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