096 願いはただひとつ




 大切なパートナーが目の前で傷ついていた。
 大人たちが必死でバケモンたちに組み敷いていた。


「どうして… どうしてなの…?こんなことをするの…?」


 純真ゆえに、彼女の心は目の前の光景についていけなかった。たくさんの人たちが傷ついているのに。大好きなトゲモンも、ミミのために戦ってくれているのに、目の前の敵たちは無情にも鉄槌を下している。


「ひどい…っ」


 つ、と頬を涙が伝った。


「許さないっ!あたしはあのデジモンたちを許さない!!」


 彼女はどこまでも、まっすぐに輝いていた。
 今は姿の見えない八人目も、ミミが姉のように慕う栞も、あいつらなんかには渡しはしない―!


―――…ミミちゃん。大丈夫。


 実際、耳に声が届いたわけではなかった。しかし、彼女の心にはしっかりと届いていた。


「栞さん、力を貸して――!」


 頬を滑り落ちた涙が、彼女の胸元で鮮やかな光を帯びた。まっすぐに輝き続けるミミの純真さが、紋章に光を与え、デジヴァイスに情報が送り込まれる。その優しい光は、地に倒れ伏せるトゲモンの体を包み込んだ。
 デジヴァイスから伝わる振動に、ミミの心が震えた。


「トゲモン超進化ァ!―――リリモン!!」


 蛹から蝶へ羽化するように。トゲモンは美しい妖精へと進化を遂げた。まるで舞うように空を駆ける姿は、どこまでも美しい色を帯びていた。
 まるで平和を象徴するように、青い空のもとで、キラキラと。


★ ★ ★




「もうすぐで、ビックサイトの近くだ…」


 近づくにつれ、爆発音のような激しい音が車内にも響いてきた。その音に怯えるおばを見て、「…止めてください」と栞は小さく言った。


「しかしまだ―」
「お願い、します。ここで…」
「――わかった」


 ミラー越しに見えた栞の姿が、消えてしまう前に見た彼女の兄の姿と重なった。思わず息を飲んで、ほんの小さく頷くしかできなかった。
 こんな非常事態ではあるが、おじはきちんと車を端に寄せ、ブレーキを踏み込み、セレクトバーをPまであげ、サイドブレーキをあげ、エンジンをとめる。単純な作業の合間にも、不思議と心臓が大きく鳴った。
 車が止まった瞬間、栞はドアを開け、外に飛び出た。おじとおばも慌ててシートベルトをはずし、そのあとを追うように外に飛び出る。


「なんだ、あの光は―」


 思わず眉を寄せたのは、ビックサイト付近と思われる場所から何回も明るい光が見えたからだ。


「みんながあそこにいる、証拠だと、思います」
「証拠…?どういうことなの?」
「仲間が、きっと戦ってくれてるんです」


 ぎゅ、と胸元をたぐりよせた。いつもあるはずのペンダントはそこにはないから、代わりに服を握り締める。栞は先ほどの感覚を思い返し、苦しそうに眉を寄せる。(きっとミミちゃんが、泣いて――それでも戦ってる)だというのならば、急いで向かわなければならない。
 そうして、ゆっくりと、胸元から手を離した。無意識だった。

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